第10章 約束 ( 北信介 )
相変わらずの満員電車。
「さん苦しくない?」
『平気。ありがと宮くん。』
私が潰れへんようにかばってくれる大きな身体に鼓動が早くなる。ドキドキしてたらあかんのに。私にはやっぱり信介くんがおるからって伝えなきゃいけないのに。
「あ、外…雨降っとる」
『え、ほんまや』
ぽつぽつと降り始めた雨が次第に勢いを増していく。そんなに長くは降らなそうやな。今日雨の予報ちゃうかったし。
「うわー俺傘持っとらんわ。止むかな。」
外を眺めながら私の頭の上で小さく独り言を呟く宮くん。
『折りたたみなら持っとるけど、すぐ止みそうやし私の家で雨宿りしてから帰る?』
「え、え、え?」
『え?傘持ってないんちゃうの?
濡れて帰ったら風邪ひくで。
春高の予選あるんやろ?』
「そ…やけど。家ええの?」
『別にええよ?』
「さんがええなら…っ」
なんだかそわそわしだした宮くんと電車を降りて改札を抜ける。
『ほんまに結構降っとるね。折りたたみじゃ小さいかもやけど…ないよりマシやんな。』
「は、はいっ」
ちょこちょこと私のうしろを着いてくる宮くんは雨をもろに受けている。
『傘入りや、小さいけど』
「や、そんな…っ!」
『ええから入り、風邪ひくで』
「はい…あ、俺持ちますっ」
急に喋らんくなった宮くんが私の方に傘を傾けて黙って隣を歩く。私よりもはるかに背の高い彼を見あげると視線がきょろきょろとして落ち着かない様子。下から見ても綺麗な顔やな。黙っとった方がえんちゃうかな宮くん。
『結局宮くん濡れてしもうたね。お風呂入っていき。お兄ちゃんの部屋着貸すから。』
「お、お風呂…!?」
『そんなびしょ濡れでおったら風邪ひくで。稲荷崎のビッグサーバー宮侑くんに風邪ひかれたら信介くんも困るわ。』
「今…初めて名前…!あかん、さんにそんなん言われたら…バレー頑張ってきてほんまに良かった…っ!」
『はいはい、はよいってき』
バスタオルと兄のスウェットを渡して宮くんをバスルームに押し込んで、私は部屋で待つことにした。