第10章 約束 ( 北信介 )
小走りのような足音が部屋に近づいてきて扉が勢いよく開いた。制服姿の。家に帰らんとそのままウチに来たんやな。
息も上がっとるしなんともいえん表情をしとる。頬には涙のあとがあって、なんかあったんは間違いあらへんし、きっとええ話でもないんやろ。
「おかえり。
話あんねやろ?いったん座ろか。」
『うん。』
「息切らしてどないしたんや。先風呂入るか?」
『ううん、話だけしたら今日は家帰る。』
…そういうこと。
「別れ話なら聞かんよ」
『…っ』
「さっき侑とホームにおったやろ。ちらっと見えてん。侑のこと好きになってもうた?」
『ちが…っ好きまではいかん…よ。』
「気になってるん?」
『…ごめんなさい。』
「なんで謝るん?別れ話なら聞かんいうたやろ。それともはもう俺のこと好きちゃうの?」
別れ話は嫌や。俺にはしかおらん。
『ううん、信介くんのことが好き。やけど宮くんに少しでも揺れてしまった自分が許せん…から。こんな気持ちのまま信介くんとおられへんよ。』
「仮にの気持ちが全部侑にいってもうたとしても俺はのこと離してあげられへんよ。」
『でも私…こんなんじゃ信介くんと一緒におる資格ない。』
「俺は以外なんもいらんねん。ただそばにおってくれるだけでええから別れるとか言わんといてや。」
たとえ俺への気持ちが無くなってしまったとしても離されへん。やっと捕まえたんや。一生そばにおって。
『そんなの…嫌ちゃうの…?
ふらふらしとるんやで私…っ』
「約束したやろ。結婚するって」
『え、あ…』
瞳が揺れてまるで怯えているような表情。あんなガキの頃の約束持ち出されたら怖いよな。でもな、ほんまに離してあげられへんで。
「約束覚えとるやろ?」
『うん…覚えとるよ。』
「下向かんといて俺の目見て。」
俯く彼女に近づいて頬に触れるとまだ揺れている瞳が俺を捉えた。
『信介くんは…他の人にふらふらしとる私とでも結婚したいと思うん?』
「どんなでも俺はええよ。
ごめんやけどほんまに離す気はあらへんわ。」
『そ…っか。』
「だからそばにおってや。」
『うん。』