第10章 約束 ( 北信介 )
目の前に立つ宮くんが私の手を握ったまま引き寄せて優しく抱きしめた。何でこんなことになってるんだろう。あんなに避けてたのは何のためだったの。こうならないためじゃないの?
「逃げないんですか。」
『私宮くんのこと避けとった…』
「うん、知っとる」
『なのに宮くん追いかけてくるから…』
「好きなんやもん、しゃーないやん。」
この真っ直ぐな言葉に何度心を揺れたら気が済むのだろうか。信介くんやって毎日気持ちを伝えてくれる。宮くんのよりも甘くて永遠のような愛の言葉を。
『も、う…追いかけてこんといて…っ』
涙があふれてくる。悲しくなんかないのに。ただショックやった。信介くん以外の誰かにこんな気持ちになることが。
「…泣かんといてさん。困らせてほんまにごめんなさい。やけど好きすぎて頭おかしくなりそうやねん。」
『私は信介のことが…っ信介くんのことだけが好き…なのに…』
「それなのに俺に揺とりますか?」
『……っ』
「肯定の意味やって思ってええ?」
『…っどうしたらいいん』
こんな気持ちのまま信介くんと一緒になんておられへん。もちろん宮くんを選ぶことも許されへん。
「俺勘違いしてもええですか?少しはさんの中に俺がいるって思っても。」
『聞かんといて…』
「さんの口から聞きたい。俺の事少しは好きになってくれました?」
黙ってたって仕方ないのに上手く言葉がでてこん。私を抱きしめたまま背中をトントンとさする宮くんの手が優しくてまた涙があふれる。
「さんのこと知りたい」
『…気づいたら宮くんのこと考えてしまうのが怖くて避けとった。これってきっとそういうことやねん。』
「あー…やばいな。心臓ばくばく言うとるわ。諦めんでよかった…早く俺のこと選んでやさん。」
『…信介くんとはもう終わりにする…でも宮くんのことも選ばれへん。』
やっぱり宮くんと付き合うとかそんなフラフラしたことできんよ。
「そんなん言われても諦めへんよ。」
『…今日はもう帰るね。信介くんと話さんと。』
「うん、またねさん。」
宮くんの表情を見れないまま彼の腕から抜け出して信介くんの家に帰った。机に向かって勉強をしていた信介くんは私を見るなり表情を曇らせた。