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今宵は誰の腕の中で眠りますか⋯?

第10章 約束 ( 北信介 )



腕の中のさんが俺の胸をトントンと叩く。

「すんません、苦しかったですか?」

『もう…離して…?』

「え、や…やです!」

『ふぇ…?』

「だって離したらさん逃げるやん!」

『逃げへんから…っ』

「…でも嫌です。せっかく俺の腕の中にさんがおるのに離せへんよ。」

困ったように俯くさん。困らせたいわけちゃう。ただ好きで、大好きで、こんなに近くにおるのに心は全部北さんのもんや。

『ほんまに逃げへんから離れよ…?』

「分かり…ました。」

小さな体を解放すると俺から少し距離をとって俯いてしまった。肩が少し震えてみえる。な、泣いとる?

「さん泣いとります?
そんな嫌やった…?」

『はや…早く出よ…っ
怖いから…夜の学校怖いの…っ』

1歩近づいてきた彼女が俺のジャージの裾を掴む。小さな手はやっぱり震えとって、瞳には薄らと涙が浮かんでいる。

「さん幽霊とか苦手なん?
サムに着いてきてもろた言うてたし。」

『さっき…さっきね、男の人の唸り声みたいなんが聞こえてん。もう聞こえへんけど怖いから早う出たい…。』

「え、もっとはよ言うてくださいよ!
出ましょう!?ダッシュで!!」

『それで慌てて教室飛び出したんよ!?
もうほんまに怖いからはよ!!』

俺のジャージをグイグイ引っ張って校内を走り抜けるさん。ほんまに怖いんやろうな、めっちゃ足速いもん。いや俺も怖いんやけど2人でいられることが幸せで正直幽霊どころちゃう。

「ここまで来たら平気やんな…?」

校門の外で1度止まり振り返る。体育館と職員室にしか明かりはついとらん。

『まだ先生たちおるんやね…』

「校内に誰かおったと思えただけでもなんか良かったわ。」

『せやね、でももう…帰ろ。』

こんなさんは見たことがなかった。クールで冷めた人やと思ってたはずのさんが幽霊に脅えとる。怖がっとる先輩には悪いけどめっちゃかわええな…。
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