第10章 約束 ( 北信介 )
教室の外で治くんが待っていると言ってくれた。
『…っお、治くん…今の…今の聞いた!?
男の人の唸り声みたいないんが…っきゃあ!』
慌てて飛び出したせいで何も無い廊下でつまづいてしまった。でも転ぶと思っていた体は壁にもたれかかっていた治くんに支えられた。
『ごめ…ごめんね…っ』
「ちょ待って…っさん!?」
『治くん…?』
治くんてこんなに慌てたりするタイプやっけ。
それに声が…まるで…。
「いや、治ちゃいますけど…っていうかサムどこいった!?」
『み、宮くん…っごめんね、ここで待っとる言うてたからてっきり治くんやと思って…。』
どうやら宮くんは治くんを追いかけてここにきたらしい。
「サムやと思うて抱きついたん?」
『え…いや、抱きついたわけちゃうよ…っ』
「そうやね、つまづいた先に俺がいただけやけど…サムの名前呼んどった。2人で何してたん?」
『私が教室に忘れ物して…たまたま会うたから着いてきてもらってん。ちょっと…その、怖くて。』
「そうなんや」
『じゃあ、私行くね…っ』
宮くんの顔を見れない。このままここにいたらあかん気がする。彼のペースにのまれる前に信介くんの元へ帰らないと。
「待ってさん」
『私急いでて…っ』
「なんで俺の目見てくれへんの。サムとやったら普通に話してるのに。」
『そんなこと…「そんなことあるやろ」』
あまりに悲しそうな声に顔を上げてしまった。視界に映った宮くんの顔は今まで見たことのない表情で、心臓がきゅっと押しつぶされてしまいそうになる。
『…っ』
「逃げんで…ください…っ」
あの日と同じように私の腕を掴む宮くん。なのに私は振りほどくことができない。
『わか…ったから』
「やっぱ優しいですね」
微笑んだ彼に腕を引かれてすっぽりと腕の中に収まってしまった私の体。なんで…抱きしめられてるんやろ。
『宮くんこれは…』
「俺の事避けすぎやさん。避けられすぎて逆に意識されとるんかと思った。」
『え、』
「避け続けたら俺が諦めると思ったん?」
不意に図星をつかれて言い訳が見つからへん。