第10章 約束 ( 北信介 )
最近は肌寒くなってきた。
そろそろブレザー用意しないとなぁ。
相変わらず信介くんとは仲良うやっとる。忙しいはずやのに部活の合間を縫ってデートやってしてくれるし、あれから何度も身体を重ねた。真っ直ぐな言葉で毎日のように愛を伝えてくれる信介くんに不満なんてひとつもあらへん。
相変わらずなんはもうひとつ。私は今も宮くんを避けとる。ここまでくると今更話すこともなければ、こんなことをする私のことなんて嫌いなんじゃないかとさえ思う。
「やっぱさんや何しとんの」
『っひゃ!お…治くん?』
部活終わりの真っ暗な校内。忘れ物を取りに教室へ戻ってきた私に声をかけたのは治くん。心霊の類が大の苦手で情けない声を出してしまった。
「驚かせてすんません。体育館のトイレ混んどってこっち来たんやけどさんは?」
『私は忘れ物しちゃって。教室行くとこ。』
「そーなんや、着いてってええですか?」
『別にええよ、むしろありがたい…です。』
「ちょっと話したいことあって。さん最後にツムと話したんいつか覚えてます?」
教室へと並んで歩きながら話し始めたのは宮くんの話題。
『いつ…だったかな。
あー…たしかインハイの準決の日かな。』
あの日私の腕を掴んだ彼の手を振り払った。それが最後やったと思う。
「めっちゃ前ですね。でもそんくらいからツムめっちゃ機嫌悪いんですよ。ついでにバレーも本調子ちゃうと思います。」
『そ…うなんだ。』
教室まで来ると治くんは足を止めた。
「俺ここで待ってますね」
『あ、うん、ありがと。』
前の扉から教室に入り電気をつける。自身のロッカーをあけるとやっぱり置きっぱなしにしていたらしい信介くんにもらった大切なハンカチ。これがないと落ち着かんのよね。お守りみたいなもんやから。
「…う゛ぅ゛」
『え…な、なに…』
男の人の唸り声みたいなんが…聞こえた。
ゆ…幽霊?ハンカチをカバンに押し込み、電気を消してバタバタと教室を飛び出す。