第10章 約束 ( 北信介 )
「信ちゃんおかえり。
お部屋にちゃん来とるよ」
「ばあちゃんただいま。
来とるん?どうしたんやろ」
「もしかしたら寝とるかもねぇ。
物音ひとつせんから。」
なにも言わんと来てええよとは言っとるけど、ほんまに予告無しに俺の部屋で待っとるんはあんまあらへんから珍しいなぁ。
部屋の扉をあけると俺のスウェットをまとったが布団に横たわっとった。なんや…これ…さすがに可愛すぎや。
「…ただいま?」
『…』
「俺に会いに来たん?」
『…』
ぐっすりやな。寝顔もほんま綺麗やわ。
柔らかな髪に手櫛を通すと、寝返りを打った彼女がそのまま俺にきゅっと抱きついた。
「え?…起きとる?」
返事は無い。寝ててこれは反則やろ。
キスくらい…ええやんな。彼氏やし。
眠る彼女の頬に手を添えて唇を重ねる。
悪いことしとるみたいやな。
触れるだけのキスを何度も何度も。
『し、んすけくん…』
「あ、すまん…これはな」
『しん、すけ…くん』
「?」
『…スー…』
起こしてしまったんかと思ったけど寝言か?俺の夢でも見てるんやろか。
『ごめ、なさい…ぐすっ』
「?どうしたん?」
目尻から流れ落ちる涙。嫌な夢でも見てるんやろか…ごめんなさいってなんや?どっちにしろこのままは可哀想や。嫌な夢から醒ましてあげな。
俺の腰に回された腕を解いて上体を起こすと、うっすら瞳が開いて視界に俺を捉える。
「起こしてしまってすまんな。
うなされとったから。」
『あ…私寝ちゃってた…ごめんね。
良く思い出せないけど良い夢ちゃうかった。』
まだ頬に残る涙のあとに胸が痛む。
「俺の名前呼んでた。ごめんって言うてた。
それに泣いとった…大丈夫か?」
『あ…うん確かに信介くんが出てきたかもしれへん。でも全然思い出せん。心配させてごめんね。』
「俺は平気やけど、なんかあったら遠慮せず言うてな。」
『うん、ありがとう』
信介くんごめんなさいって何やろ。
泣くほどに辛い夢ってなんやろ。
モヤモヤ嫌な予感がしてしゃあない。