第10章 約束 ( 北信介 )
接戦の末、決勝に駒を進めた稲荷崎。信介くんよりも宮くんたちの出ている時間が長かった。宮くんはビックサーバーってやつらしい。ほんで高校NO.1セッターって言われてるんやって。
信介くんがコートにおらん時間はどうしても宮くんが目に入ってしまう。客席からでもよう目立つ金髪。並外れたプレイ。そういえばうちわを持ってる女の子たちもおった。
ドンドンと体に響く応援団の楽器音。宮くんの合図でピタリと止まって大砲のようなサーブが繰り出される。
信介くんとはプレイスタイルが違う。
だからこそ物珍しくて見入ってしまうのかもしれない。
帰ろうと席を立つ私にかかる声。
「さんやっぱ見に来とった!」
『…宮くん?ミーティングは?』
肩で息をしている宮くんが私を見つけるなり笑顔で近づいてくる。
「今は皆クールダウン中です。
あと少ししたら戻らなあかんですけど。」
『そうなんだ』
会話が続けば続くほど彼のペースに持っていかれてしまうと分かっている。
「俺のプレイ見てくれてましたか」
『私もう帰らなあかんから。』
「待ってさん。
俺のこと少しでも見てくれた?」
帰ろうと足を進めた私の腕が掴まれた。
『み…見てへん。』
「少しも?」
『少しも見てへん。じゃあね。』
「あ…え、さん…っ」
私を呼び止める宮くんの声を無視して彼の横を通り過ぎた。私は今どんな顔をしてるんやろか。少しも見てへんなんてしょうもない嘘をついてまで宮くんを避けなきゃいけない理由は?
さっきまで信介くんでいっぱいだった私の頭の中は、こんな一瞬の出来事で宮くんに塗り替えられていく。
やだ…やめてや…っ。
私が好きなのは信介くんやんか。
あんな嘘でもつかんと宮くんを目で追ってしまう気がして怖い。信介くんだけで満たされていたいのは本音。信介くんに会いたい。
自分の家には帰らず信介くんの家に帰った。お風呂を借りて、信介くんのスウェットも借りて、まだ帰ってきてへん信介くんの部屋に1人寝転がる。大好きな彼の匂いに包まれて疲れた体は眠りへと沈んでいった。