第10章 約束 ( 北信介 )
夏休み、インハイ期間中の部活はほんましんどい。でも、もしかしたらさんが見てくれてるかもとか、そんなくだらん妄想で俺は頑張れる。ちょろすぎやねん。
「ちょっと休憩挟もか!!」
「「「「ぅースっ!」」」」
外行って水道の水頭から被ろかな。
体育館横にある水道は日陰で気持ちえぇ。
水道に頭突っ込んでバシャバシャと水を浴びる。
『タオル落ちてんで。』
え…この声。聞き間違えるはずかない。
「さん…?ちょ、ちょっと待ってください、目があかへん!」
汗の交じった水が目に染みて痛い!!
『目擦ったらあかんよ』
さんが俺に話しかけてくれとる…やばいなんか泣きそうや。
「な、な、何しとるんですか」
びっしょびしょの頭の俺にさんがタオルを差し出す。拾ってくれたんやなーってなんかジーンとする。こんな小さいことでさえ嬉しいねん。
『何って部活やけど。
男バレはインハイやんな。頑張って。』
振り出しに戻ったくらい声色が冷たい。
やけど頑張っての一言で心臓ぎゅってなるわ。
手ぇ洗いに来ただけやからってテニスコートに向かって歩き出すさん。めっちゃ久々話した…どないしよ、もっと話したい。
「…さんっ」
『なに?』
「俺のこと…その、嫌いですか。」
勢いで聞いてもうたけどちょっと怖いな。
『いや…別にそんなことないで』
「そ…っか、良かった…。」
それが聞けだだけでめっちゃ安心やわ。嫌われたんちゃうかって怖かった。
『うん、じゃあ…行くね』
「あ、待ってさん」
『なんや』
引き止めてしもうたけどなんも言うことあらへん、どないしよ!
「あ、いや…」
『用がないなら行くけど』
「あ…はい、引き止めてすんません」
再び歩き出したさんのうしろ姿をぼーっと眺めることしかできない。ちょっと話せただけやし、なんなら距離縮まる前みたいに冷たかった。それでも好きやなって…それに俺嫌われてへんかった!