第10章 約束 ( 北信介 )
砂浜と道路の境目にある階段に2人で並んで座る。1人分あけて腰を下ろしたさんとの距離がもどかしい。
『海綺麗やね。』
「さんの方が綺麗です。」
『ちょっと宮くん?』
「はい」
『さっきからどうしたん?』
「ほんまに好きすぎて口に出さんと溢れてまうんですよ。だから言わせてください。さんめっちゃ好き。ほんまに可愛ええ。あー!付き合いたい!」
『ちょっと声大きいで!
恥ずかしいからやめてや!』
周りに人たくさんおるやろって、慌てて俺の口を塞ぐ小さな両手。あったかくて甘い香りがする。
俺に伸びている細い手首を掴んでグイッと引き寄せると、そのままトンとぶつかった。腕を掴んでいる手とは逆の手を彼女の腰に回して逃げられんように腕の中に閉じこめる。
『ね、ねえちょっと…っ』
「つかまえた。」
『離してや宮くんっ』
「ちょっとだけ…あかん?」
『あかんよっ』
「…やだ。」
『やだ?ちょっと宮くんほんまに…っ』
「お詫びとお礼、やろ?」
『それ言うんはずるいし、こんなお礼はせんよ』
そういって顔を上げたさんと目が合う。
「わ、近…い。キスしてええですか?」
『ダメに決まってるやろ』
「すんません、調子乗りました」
『もう暗くなってきたし帰ろう』
そう言われて海を見ると太陽は半分ほど沈んでいた。一緒におると時間経つの早すぎて気づかんもんやな。
「じゃ、じゃあ最後にわがまま言ってええですか」
『なに?』
「手…をつなぎたい、です。」
『…却下。』
「ちょっとだけ!」
『却下や』
「けち!!」
『けちで結構です』
立ち上がって先に歩いていってしまうさんを追いかけて手を掴む。
『ちょ、っと却下って言うたやろ!』
「つーなーぎーたーいー!!」
『あぁもう分かった!』
「え、ほんまに?」
『騒がれたらたまったもんじゃないねん。』
夢みたいや。あのさんと手繋いでるなんて。好きが溢れて死にそうや。
「さっきも思ったけどさん手ちっこい。」
『宮くんの手がおっきいんちゃう?
女子はみんなこんなもんやで。』
こんな会話が幸せすぎて苦しい。