第10章 約束 ( 北信介 )
は多分カップルの意味をあんま理解しとらんかったと思う。おっちゃんの言う好きの意味を分かってへんかったから。俺もよう分からんかったけど、が特別な存在だったんは確かやった。
『お母さーん!これ信介くんが買うてくれた!』
小さな手に大切そうに握られた指輪をおばさんに見せてほんま嬉しそうに笑っとった。
「うそ、やだごめん!私払うよ!」
「いいのよ、信介ちゃんのこと大好きやからプレゼントさせてあげてや」
「うちの子も信介くん大好きやからほんま嬉しそうやわ、ありがとうね」
『これどこにつけよーかなあ』
「信介がつけてあげたら?」
お母さんに左の薬指やでって耳打ちされて
「うん、ちゃんそれかして」
『うんっ』
左手をとって指輪を薬指にはめると
『わーあ!結婚式みたーいっ!』
はめられた指輪をしばらく眺めて俺にも同じようにはめてくれた。
「よかったなあ〜!
信介くんと結婚できたやーんっ!」
『うん!信介くんと結婚したあ!』
「結婚は大人になってからやないとできひんのやでちゃん」
『え、そうなん!
じゃあ大人になったらもう1回せんとやなあ』
「大人になったら本物の指輪僕がプレゼントする!」
『やったあ!信介くんと結婚やあ!
この指輪は大人になるまで大切に持っとる!』
「僕も大切にする!」
子供の頃に勢いでしたも同然の約束をずっと覚えとる方がおかしいんよな。いまでもずっとあの時の指輪を大切にしとるし、あの頃に抱いていた特別が好きに変わるのなんてほんまにすぐやった。
ちっさい頃から外を歩けばべっぴんさんや言われてたは成長するにつれて息を飲むほど綺麗になった。
しょっちゅう声掛けられとるけど彼氏をつくったりはせんし、好きな人がおるとかも聞いたことがなかった。
せやけど最近は好きな人ができたらしい。
あの日の約束をいつまでも覚えとる俺がおかしいはずやのに、めっちゃ苦しいねん。
侑の告白断った言うてるわりには仲ええし。
今までそんなこと…無かったやん。