第10章 約束 ( 北信介 )
「おはようさん」
『ん…ん、あとちょっと…』
「ほんまいつになっても寝起き悪いな。
はよ起きんと遅刻すんで。」
『そ、れは…困るぅ…』
「なら、はよ起きんかい」
ばっと布団を捲られて温もりが消える。
『う…っ寒いよもう…!』
「こうでもせんと起きんやろが。」
信介くんの家に泊まった次の日の朝はいつもこう。寝起きの悪い私を何度も起こしに来る信介くん。ちょっとお母さんみたいやな、とか思ったりしてしまう。
『くぁあ〜っ、いってきまーす』
2人並んでの登校。信介くんと学校へ行く日はいつもより早く家をでる。早く行って部室の掃除とかしてんねんて。私はそんなん無理やからこうやって泊まったときくらいしか一緒に行かへんのやけど。
『信介くんは毎朝すごいなぁ。』
「別にすごないよ。ルーティンやから、やらんと気持ち悪いねん。」
『そういうもんなんやぁ』
学校が見えてくると、校門の前に隣の高校の制服を着た人がおった。朝早くに他校の前で何してんねやろ。
「あ、すみません!
さんですか?」
『え、そうやけど…どちらさん?』
「俺、隣の高校の2年です。
男テニなんですけど、女テニの応援に行った時にさんを見かけて…一目惚れしました…っ!もし良かったら連絡先交換してくれませんか?」
『わざわざ来てくれて申し訳ないんやけど、ごめんね。気持ちには応えられへんから連絡先も教えられへん。』
「そ…うですよね。こんないきなり。
また来ます…!急にすんませんでした!」
『いやまたって…』
私の声は彼には届かず、そのまま走り去っていってしもうた。
「他校の男子生徒まで来んねんな。
ほんまようモテるなは。」
『好きな人ちゃうかったら意味ないって。』
「だから好きな人誰やって聞いとるやん」
『こ、今度な。今度言うわ。』
「楽しみにしとるわ。」
私が目の前で告白をされても、好きな人の話を匂わせても、信介くんは顔色ひとつ変えへん。私のことをなんとも思ってへん証拠や。いつか振り向かせたるって頑張ってる自分磨きも信介くんには全然効かへんねん。どんな人がタイプなんやろか。聞いたことないなぁ。