第10章 約束 ( 北信介 )
「なあ、彼氏おらへんてほんまか?」
隣の席の男の子。
いつもなにかと話しかけてきよる。
『うん、おらんよ』
「俺立候補してええ?」
『するのは勝手やけど応えられへんで』
「そういう釣れへんとこも好きやわぁ
なあ今日一緒に帰らへん?女テニ休みやろ?」
『休みやけど無理。』
「えーなんでやあ⋯「、帰んで」」
クラスメイトの声をさえぎったのは廊下から教室に少しだけ顔をのぞかせた私の好きな人。
『信介くん』
「名前呼びええなぁ〜
北羨ましいわあ〜ええなあ」
「何アホなこと言うてんねん」
『信介くん帰ろう』
「帰ろか」
――――
『なあ、あそこにおるん男バレの子ちゃう?』
「ほんまやな。」
『挨拶とかせんでええの?』
「あっちが気がついたらでええよ。
今日は部活ちゃうしな。
先輩に声かけられたら気ぃ休まんやろ。」
『そっか、それもそうやね』
何度か試合を見に行ったことがあって、少しなら他の学年の子も分かる。顔しか分からへんけど。
「あ、北さんや。お疲れ様です!」
「お疲れさん。
オフなんやからしっかり休みや。」
信介くんに気がついて話しかけてきた金髪の男の子。この子はたしか…
「あ、え、さん…っ」
『こんにちは宮くん』
「なんや知り合いか」
『この前ハンカチ拾ってくれて。』
「ハンカチ?あぁ…あれか」
あのハンカチは小さい頃に信介くんがくれたもの。公園で遊んでて転んだ私に自分のハンカチ濡らして手当してくれた。そのあとは家までおぶって帰ってくれて。
洗って返したんやけど、はよく転ぶんやからハンカチくらい持っとき、ってくれたんよな。
あの日からずっと信介くんが好き。
だからこのハンカチは大切やねん。
「あ、あのっ!さん!」
『ん?』
「か、彼氏とかおるんですか!」
『おらんよ』
「ほんまですか!?」
『嘘ついてどないすんねん』
「…あ、いや!
知りたかっただけです、すんません!」
それだけ言い残して宮くんは走って帰っていってしもうた。
「なんや侑にも好かれとるんか」
『宮くんとは1度話したきりや。
早く帰ろう信介くん。』
「そうか。」