第10章 約束 ( 北信介 )
北さんに用があった帰り、自分のクラスまで戻る廊下で先輩が前を歩いとって。そんだけで今日1日ツイとるわって感じなんやけど、先輩がなんか落としよって、気づかんとそのまま行ってしまうから追いかけたんよ。
ハンカチやったんやけど、名前もわからんから
「すんません!」
ってとりあえず声掛けたら
振り返った先輩ごっつ綺麗で撃たれた思ったわ。
「あ、これ落としましたよ」
あくまでも冷静に、スマートにや俺。
『あ、すみません。
これすごく大切で⋯ありがとう。』
本当に大切そうにハンカチ持っとって、使ってるいうより持ち歩いてるって感じやったな。
せやけど話せたん初めてやし、このままはもったいないと思って俺勇気出してん。
「あ、あの先輩⋯って名前なんて言うんですか」
『え、私?
です。』
「さん⋯」
『うん』
「あ⋯お、俺は宮って言います!
2年の宮侑です!バレー部です!」
『そっか、宮くん。
じゃあ私移動教室やから行くわ。
ハンカチありがとう。』
「あ、はいっ
引き止めてしまってすんません!」
そんだけ。はたから見たら俺ヤバいやつやねん。いきなり名前聞いて⋯引かれてたらどないしよ、とか今になって気づいたわ。
けどまあ⋯話せたし。
去年の俺からしたら成長やろ。
もう先輩が卒業するまで話されへんかもしれんし⋯思い出ってことにしとこか。いや⋯いやいや連絡先とか知りたいしデートとかしたいし、付き合いたいねん⋯ほんまは。
程遠すぎるやろって話やねん⋯。
あー⋯どないしよ。恋煩いや。
話せたから余計好きになってしもたんや⋯。