第9章 歪想 (羽宮一虎 / 場地圭介)
私がまだ小さかった頃。
体が少し弱かった。すぐ熱をだしたり貧血になったり。小学校の高学年に上がる頃にはそんなこともなくなったのだけれど。
そういうときいつもそばにいてくれたのは圭介くんだった。食欲がないとゼリーや果物を買ってきてくれたし、貧血を起こすと私をおぶって家まで送ってくれたりした。
一緒にいるのが当たり前で、今以上の関係を考えたことなんてなかったけど、もしも圭介くんに彼女が出来てしまったら…この優しさを他の誰かが受け取る日が来たら…そう思うと苦しい。
「…今何考えてんだ?」
『…っなに、も…』
「俺には言えねぇこと?」
『そゆ…わけじゃないけど。』
「のことが知りてんだ。
お前が思ってること教えてくれよ。」
こんなにまっすぐ見つめられては誤魔化すことができない。
『圭介くんいつも優しくて…いつもそばにいてくれて…もし他の女の子に同じことしてたらって考えると苦しいの…。』
「…えっ」
『好きな人じゃなきゃ意味ないって言ってたのに…私にキ、キスするから…っ他の子にもしちゃったらどうしようって…。』
「いや、だからそれは俺がお前を…っ」
『私圭介くんのこと好き…みたい。』
カズくんに抱く気持ちとは違う好き。カズくんが他の女の子と遊んでると取っかえ引っ変えしすぎてて心配にはなるけどこんな気持ちになったりはしなかった。
「もっかい言って…?」
『え、や…やだよ恥ずかしいもん。』
「聞きたい…頼むよ。」
そんな目で見られたら…
『す…好きです。』
トクトクと脈打つ鼓動が聞こえてしまいそうなくらいに速くなる。満足そうに微笑んで重ねられた唇は蕩けそうなほど熱くて息をすることも忘れてしまう。
「…顔真っ赤。」
『もう…恥ずかしいからおりてよ…っ』
私に跨ったままの圭介くんの胸をトンと押し返す。
「せっかく両想いになったのに終わりかよ?このままお前の初めて全部欲しい…ダメか?」
「…っだ、だめ…今日はだめ。」
カズくんとシたことを知ったら嫌われるかな…
「がっつきすぎたわ、わりぃ。
お前がいいって言うまで待つから安心しろ」
『う、ん…ありがと。』