第9章 歪想 (羽宮一虎 / 場地圭介)
前を歩くが振り返る様子はない。
「」
『…』
「なあ…荷物持とうか?」
『自分で持てるから大丈夫だよ。』
いつもは持たせてくれる荷物だって自分で持ったまま。このまま関係が崩れたら…もう二度と口を聞いて貰えなかったら…嫌だ、嫌だよ。
ぐるぐると考えているとあっという間にの家に着く。
『先に私のお部屋行ってて。』
「おぅ。」
靴を脱いでの部屋に向かう。もう何度も来たはずなのにこれが最後なんじゃないかって…そう思ったら怖くてたまらねぇ。
『ごめんねお待たせ。』
「いや…全然」
トレーにお菓子と飲み物をのせた彼女が開いたままのドアから入ってきて、それをテーブルに置く。
『どうして立ってるの?
座ってよ圭介くん。お茶もどーぞ?』
なんとなく座れずにいた俺にクッションを渡してくれたから座るよう促され、腰を下ろす。落ち着かない…心臓がドクドクいってて、ザワザワしてる…。苦しい。
「…」
『うん?』
「怒ってる…よな?」
『どうしてそう思うの?』
驚く程に落ち着いた声が逆に不安を煽る。
「キスした、から。」
『どうして…したの?』
え、あれ…の声震えて…
「え、なんで泣いて…っ
そんなに嫌だったか…?」
『ちが…っ、嫌じゃ…なかった』
目の前にいるは泣いているのに。俺のせいで泣いているのに。嫌じゃなかったと言ってくれた、ただそれだけですごく安心している。
「じゃあなんで…」
『嫌じゃなかったから…苦しいの。』
「苦しい…?」
スカートの裾をきゅっと掴んでポロポロと涙を流す。どうしたらいいか分からなくて、ベッドにもたれて座る彼女の隣に腰を下ろし涙を拭う。
『う…っぅ、ぐす…んっ』
「ごめん…、」
泣いている姿さえ愛おしくて、確かに反省していたはずなのに俺はまたに唇を重ねていた。
『…っ、ちょ、っと』
鼻先が触れるほどの距離で濡れた瞳が俺をうつす。そんなのは俺の理性を崩すのに十分で、
「可愛い。すげぇ可愛いよ。」
小さな身体を抱き上げてベッドの上に縫いつけた。