第9章 歪想 (羽宮一虎 / 場地圭介)
腕の中にいるが不思議そうに、でも好きだと返してくれた。それだけでいいはずなのに、同じ好きがいいと欲張ってしまう。こいつの全てが欲しいと手を伸ばしてしまう。
「なあ。」
『なーに?』
「頭撫でて。」
短くなった髪を確かめるように小さな手が髪の間を抜けていく。に撫でられるのが好き。一虎も言ってた。落ち着くっつーか安心するっつーか。
『やっぱり甘えん坊さんの日?』
俺の脚の間に立つが優しい声で聞く。
「ちげーって。そんなんじゃない。」
そんなんじゃない。
そんな…可愛いもんじゃない。
お前が俺の腕の中にいるって感じたかった。一虎じゃなくて俺を見てほしかった。
俺が腕に力を込めるたび、ぎゅうっと抱き締め返してくれる。それが嬉しくて離しがたくなってしまう。
『カズくんそろそろかなあ』
「…わかんねぇ。」
が一虎の名前を呼ぶたび心臓が握られるような感覚になる。苦しい。俺だけを見て俺のことを考えて欲しいと思うことが欲張りだってのは分かってる。
どうしたら俺を見てくれる?
『私ね圭介くんにぎゅーってされるの好きだよ』
「え?」
『お泊まりした時にさ、もう高校生だし男女でこんなことするのはって言われた時悲しかった…んだ。もうしてくれないのかなって…。』
「それは…」
お前から求められると勘違いしちまうから。
『だけど、朝起きたら圭介くんの腕の中にいて…すごく嬉しかった。今もこうやって抱きしめてくれて嬉しいんだ。』
「…」
『私は離れていかないよ。
だから圭介くんもそばに居てほしい。』
きっとこれは俺の欲しかった言葉。もし一虎のもんになったらって怖かった。この気持ちを吐き出して離れていったらって…。
「俺だって離れてったりしねぇよ」
『最近なんか距離感じることがあって不安だったの。良かった…私圭介くんのこと大好きだから…。』
トクン、と跳ねる心臓。
この大好きに意味は無いと分かってる。
分かってても期待しちまうんだよ。
もしかしたらって…。