第9章 歪想 (羽宮一虎 / 場地圭介)
圭介くんの唇に触れられたところが熱い。指先からジワジワと熱が回るような感覚。私はコレを知っている。
カズくんに触れられてから知った感覚。
だけど今目の前にいるのは圭介くんなわけで、カズくんとしているような事は起こらない。
それを何だか物足りなく感じている自分が嫌で、溶け始めているアイスを一気に頬張った。
「食い終わった?」
『ん、食べ終わった』
「んじゃ手ぇ洗ってはみがきして寝るぞ」
『はあい』
続きなんてない。
寝る準備を済ませて圭介くんの部屋に戻ると、私より先に戻っていた圭介くんは既に布団の中に入っていた。
「おかえり、おいで」
『うんっ』
ペラっとめくられた布団に入ると、枕元に置いてあったリモコンによって直ぐに電気が消される。
『わっ』
「わり、消さない方が良かったか?」
『ううん、びっくりしただけ!
真っ暗だーっ』
「眠くねーの?」
『まだ眠くないかなあ』
「なんか話す?」
『んー。ぎゅってしたい。』
「え?」
隣にいるのに触れてはいけないような、届かない距離が寂しかった。圭介くんが遠くに行ってしまうみたいで耐えられなかった。
『だめ?』
「いやダメとかじゃねぇけど、俺たちもう高校生なわけで…やっぱ一緒に寝るとか男女で普通しないよな。」
たまに感じるようになった距離が悲しい。
『私のこと嫌い…?』
「は?んなこと言ってねぇだろ」
『そーだけど…』
「好き、に決まってる。」
好きだと言った圭介くんは少し苦しそうだった。
『ごめんね…もう寝よっか。』
「…あぁ。」
好きだと無理矢理言わせてしまったみたいでなんだか気まずい空気が流れたのに耐えきれず寝ることにした。圭介くんに背を向けてしばらく経ってから名前を呼ばれる。
「…もう寝た?」
返事はせずに寝たフリをする私の背中から伸びてきた腕に抱きしめられて、じんわりと圭介くんの体温が広がっていく。
「おやすみ…。」
抱きしめられたまま迎えた朝は心地が良かった。