第9章 歪想 (羽宮一虎 / 場地圭介)
「悪ぃ待たせた…」
『全然だよ…、えっ!?』
アルバムから目を離して俺を視界に捉えたが目を見開いて口をパクパクとさせている。
「…変か?」
『うそ…今切ったの?』
「あぁ、千冬んとこ行って切ってもらった」
『え、ど…どうしたの?
もしかして私が見たいって言ったから?』
風呂行くっつって戻ってきたら髪切ってんだからそりゃ驚くよな…。
「まあ…」
『昔の圭介くんみたい。すごい。』
「変…?」
『ううん、かっこいい』
それが聞けりゃ満足だ。
お前から言われなきゃ意味ねぇ。
「ははっ、ちょースッキリしたわ」
『そりゃそーだよ!
あんなに長かったもん』
「頭すっげえ軽い」
『触りたい!こっち来て圭介くん』
床に座ったまま手を伸ばす彼女の隣に腰を下ろす。優しく撫でるように触れる小さな手。
「んな触って面白ぇか?」
『んー?サラサラで気持ちーよ』
「そりゃお前もだろ」
の黒いストレートヘアに手ぐしを通すと、サラサラと柔らかな感触が指の間をぬけていく。
『えへへ、撫で合いっこだね』
なんて言って笑う彼女が愛おしい。
見つめ合って互いの髪に触れ合って、俺たちの間にはガキの頃からの写真がつまったアルバムがあって。こんなに近くにいるのに…。想いが届かないのは何でだろう。
「…」
『うん?』
「ほんと髪綺麗だな。」
こんなことが言いたいんじゃない。
後先考えず伝えてしまえたらどんなにいいか。
好きだよ。
アルバムの中の俺はの方を向いている写真が多い。ガキの頃から無意識に目で追ってたんだと思う。
『圭介くん』
「ん?」
『はい、どーぞ』
目の前で腕を広げる彼女。
「なんだよ」
『圭介くんのこと甘やかしてあげるって約束した。だからおいで圭介くんっ』
「…いいって」
『どうして?』
お前に包まれたらもう戻れない気がして怖い。想いが溢れそうで怖い。
「それは俺が… 「ただいまー」」
『あ、涼子さんだ!』
帰宅してきたお袋の声に反応して玄関へと飛び出していく。また言いそびれたな…。