第9章 歪想 (羽宮一虎 / 場地圭介)
『え、ど…どうしたの?
もしかして私が見たいって言ったから?』
「まあ…」
『昔の圭介くんみたい。すごい。』
「変…?」
『ううん、かっこいい』
ガキの頃から伸ばし続けた髪を今さっき切った。理由は短いのも久しぶりに見てみたいって、が言ったから。ただそんだけ。
千冬んちにいってハサミを渡すとすんげぇ驚いた顔して、何度も切るのを躊躇って、やっと切ってくれた。
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「おい千冬ぅ、いるか?」
「場地さん?」
風呂に行くと言ってそのまま家を出た俺はハサミと着替えだけを持って千冬の家の前に来ていた。っていっても同じ棟内。
「俺の髪切ってくれ。ここくらいまでな」
指で耳の下ら辺をさすと目を見開いた千冬がフリーズして動かなくなった。
「待たせてるやついるから早くしろ」
ハサミをわたして風呂場に向かう。
「場地さん急にどうしたんすか…?
なんかあったっすか?…失恋すか?」
「なんもねぇよ。失恋もしてねぇ。
いーから早く切れや」
「でもこんな長い髪切るのもったいねえっすよ」
「俺がいいっつってんだろ」
「…わかりました。切ります…。」
「おー頼むわ。」
ジャキン、ジャキン、と切り落とされていく髪。
「…まじでいいんすよね!?」
「おー」
「やっぱなんかあったんすか…?」
「なんもねえって。」
「さんすか?」
「…っ」
背中から聞こえる千冬の声。
まさか当てられるとは思わなかった。
「場地さんの事なら俺分かるっすよ。さんに短い方がいいって言われました?」
「いや、久しぶりに見てみたいって。」
「じゃあカッコよくしないとっすね。」
「おー、頼むわ…。」
今更コイツに隠したって意味ねぇからな。誰にも吐き出せないこの気持ちを今だけはお前が全部受け止めてくれ。
「お、こんなんでどーすか?
俺結構上手いと思うんすけど!」
嬉しそうな声に鏡をみると、まるで昔に戻ったような自分の姿がうつっていた。
「さんきゅ、お前最高だわ」
ぐしゃっと頭を撫でるとふにゃりと笑った千冬。ほんと最高の腹心をもった。
シャワーを借りて自分の家にもどると、俺の部屋でアルバムを手に微笑む彼女が待っていた。