第9章 歪想 (羽宮一虎 / 場地圭介)
「…近すぎ。離れろ。」
我慢できなかった。
2人の距離も、そこに隠れたナニカにも。
「でたでた場地の過保護」
『ご、ごめんねカズくん…っ』
「急に振り返るからビビっただけー
今更そんなん気にする仲でもねぇだろ」
普通の態度なはずなのに平然を装ってるみたいに見えて一虎に違和感が募るばかりだ。
抱きしめていたから体を離しても、足の間には彼女を収めたまま。
「これ飲んだら帰るぞ」
『え、あっうん。』
「なになにもう帰んのかよ」
早く2人きりになりたかった。
この距離感の2人を見ていられなかった。
『カズくん具合悪いんだしゆっくり寝てね。
週明けの朝またお迎え来るから。』
「別にもう平気だっつのー」
「お前うるせぇから寝とけ」
「場地は冷てえな。」
『ゆっくり寝て早く良くなってね』
「優しー。頭撫でて。」
離していたはずの体を再びにくっつけて、後ろから覗き込むように話しかけている。
『よしよし、早くよくなーれっ』
「ふはっ、俺はガキかよ笑」
『っあれ、違ったかな…?』
「ううん、お前に撫でられんの好きだからいい」
『そ、そっか!よしよしカズくん』
ほんと優しい顔すんだな。
やっぱりコイツに惚れてるんだと思わずにはいられない光景に胸が締め付けられる。いつも通りなはずなのに一虎の名前を呼ぶの声色にさえ今の俺は敏感になってしまう。
「」
嫉妬なんて醜い感情だ。
だけど名前を呼ぶと俺を視界に写してくれるから。ただそれだけで満たされてしまうから。
『あ、もう帰る?
そしたらカズくんまた週明けね!』
一虎から離れて立ち上がると荷物をまとめて俺の手を取る。
「来てくれてさんきゅーな」
『うん!』
「じゃあな一虎」
「おー、またな」
繋がれた手があたたかい。
早くこの温もりを連れて帰りたくて一虎の家を足早にでた。の家まで来たところで彼女が歩く足を止める。
『ねえ、1回お家寄ってもいい?
替えの服とメイク道具だけ取りに。』
「あぁ、待ってるから行ってこい」
すぐに戻ってきた彼女と俺の家までの道のりを歩く。2人きりで泊まりなんて久々だ。あー心臓うるせえ。