第9章 歪想 (羽宮一虎 / 場地圭介)
『カズくん大丈夫かな。』
学校までの道。
『カズくんから何も連絡ないや。』
1限終わりの休み時間。
『カズくんが体調崩すの珍しいね。』
3限終わりの休み時間。
『結局連絡こなかったなあ…
何買っていこう…』
今現在。放課後。
「朝から一虎のことばっかだな」
『だってカズくんが体調崩すのいつぶり?圭介くんもあんまり風邪ひかないよね。そりゃ心配にもなるよ。』
「頭いてぇだけだろ、寝ときゃ治るわ」
のクラスの前を通るたびに様子を伺ってはいたけど、朝からずっと携帯とにらめっこ状態。
俺のクラスに迎えに来てくれた彼女と2人きりの教室。
『…ちゃんとお薬飲んだかな。』
「ガキじゃねんだから大丈夫だって」
『でもカズく… 「」』
「ん?」
一虎の名前ばっか呼ぶお前は…
お前の心はもう一虎のものなのか?
「…」
『なーに圭介くん?』
「お前ってさ…一虎のこと…」
『うん?』
「好きなの?」
『そりゃ好きだよ、大好きだよ。』
「そうじゃなくて…一虎と付き合いたいとか…そういう好きじゃねえの?」
『どうしたの…圭介くん。』
一瞬揺れた瞳。違うって言ってくれ。
「こっち来て」
机に腰掛けていた俺は窓辺に背中を預けていた彼女に手を伸ばす。一虎のことが好きだと言われたらと思うと怖くて。その先を聞く前に彼女を自分の腕の中に閉じ込めた。
『圭介くん?』
「しばらくこうしてたい…」
『うん、わかった。』
何も聞かずに俺の頭を撫でて背中に腕を回してくれた。この温もりが誰かのものになるのなんて俺には耐えられそうにない。もういっそ好きだって言ってしまおうか…。
「…」
『なーに?』
「俺さ…、」
プルルルルルル
『あ、カズくんから電話!』
俺の頭を撫でていた手が離れて、代わりに握られた携帯からは一虎の声が聞こえる。
《あー…ごめん連絡遅くなって。
すっげぇ寝てたわ。》
『全然大丈夫だよ、圭介くんもいるし!
これから帰るけど欲しいものある?』
《んー、特にねぇかな。
なんかあったかいもん飲みたいくらい》
『分かった、買っていくね』
《悪いな、さんきゅ。》
『ううん、またあとでね』