第9章 歪想 (羽宮一虎 / 場地圭介)
『よし、行ってきます!』
「はーい、いってらっしゃい。
圭介くんこの子よろしくね」
「うっす、いってきます」
いつも通り、別にいいのにと遠慮するの手から荷物を奪い、今日はいつもより早く彼女の家を出発した。卒業が危うい一虎のために。
『カズくんもう起きてるかな』
「寝てんだろ」
『寝てるかあ』
インターホンを鳴らすと出てきたのはやっぱり一虎の母ちゃんで、申し訳なさそうな顔をしていた。
「もー2人ともありがとう…。
あの子まだ寝てるのよねぇ」
一虎の部屋に上げてもらうと、気持ちよさそうにスヤスヤ眠る姿がすぐ目に入った。こいつマジで寝起き悪ぃんだよな…。
『カーズくんっ』
「……」
『カズくん朝だよっ』
「……」
『起きないね。』
「…一虎ァ?起きろー。」
「……っん、」
『あ、起きた…?
カズくん朝だよー?』
寝返りをうっただけで、すぐに寝息が聞こえてくる。こいつマジで寝起き悪ぃ。ぜんっぜん起きねぇ…分かってたけど腹立つな。
「っおいてめぇ起きろや…」
『ほら圭介くんが怒っちゃうよー?』
「クソ…おい一虎ァ…っ!」
『こらこら圭介くん本当に怒んないの』
「甘やかすなよコイツ卒業できねぇぞ」
『それは困るけどさあ…』
そう言って床に膝を着いたが、眠る一虎の頬をつつき出した。目にかかる前髪を細い指でよけて優しい声で一虎の名前を呼んでいる。
『カズくん…起きよう?
起きないと一緒に卒業できないよ?』
「ん…」
『カズくん…?』
「ンん……マジで来てくれたの…」
まだ完全には開いていない目が視界にを捉えると、腕を伸ばして甘えるように抱きついた。
相手が一虎とはいえ心中穏やかでは無い。
『よしよし、ほら起きようね』
「…今日は ━━━ な。」
『な…ば、ばかっ!』
寝ている自分の口元に、くいっとを引き寄せ声を送り込む一虎。なんて言ったのかはわかんないが、の耳が一瞬で赤くなってアタフタしだしたのは分かる。