第9章 歪想 (羽宮一虎 / 場地圭介)
しばらくの沈黙。圭介くんといてこんなに気まずいと思ったことはない。どうしよう…きっと変に思われてる。
「お前が話したくないなら話さなくていいけどよ。」
『…っ』
「苦しいなら話して欲しい」
『…え?』
「お前が今更俺に隠し事できるとも思えねぇしな。無理に話せとは言わねぇから何かあったら俺がいるくらいに思っとけ。」
『圭介くん…』
「…っは?なんで泣きそうな顔してんだよ!
おいおい…あーもうほら来いよ。」
鞄を持っていない方の手を広げる圭介くん。
いつだって男らしく全てを受け入れてくれるような人。小さな変化にもすぐ気がついて、何も言わずにそばに居てくれる人。
『ありがとう…圭介くん…っ』
こぼれ落ちる涙が圭介くんのシャツを濡らしていく。嘘をついてごめんね。本当のこと言えなくてごめんね。そばにいてくれてありがとう。
「泣くなって…。」
抱きしめながら大きな手が頭を撫でる。あたたかくて安心する手。圭介くんの彼女になる人はきっと幸せだ。幼馴染の私をこんなに大切にしてくれるんだから、彼女はもっともっと大切にするはず。
「おー…俺のシャツすっげ濡れてるな…」
『ごめ…なさいっ』
「別にいいわ。」
『圭介くん…』
「ん?」
『ありがとう』
「なにが…だよ。何もしてねぇよ。」
『何も聞かずにそばにいてくれて、抱きしめてくれてありがとう。圭介くんといると安心する…どこにもいかないで。』
でもやっぱ彼女ができたらこんなふうに一緒に帰ったり出来なくなっちゃうよね…それは嫌だな。カズくんと圭介くんのそばにいたいよ。
「どこもいかねぇよ…。
もう心配させるようなことしねぇから泣くな。」
きっと圭介くんが言ってるのは自分のお腹を刺したときのこと。あの時は枯れるくらい泣いたからなあ…。私の思うどこにもいかないで、とは違うけどそれでもいい。そうとってくれた方が助かる。