第9章 歪想 (羽宮一虎 / 場地圭介)
「ねぇ羽宮くんってば!」
昼休み、お弁当をもって圭介くんのクラスへと向かう途中聞こえてきた声。その声は紛れもなくカズくんの名前を呼んでいる。振り返ると、ちょうど登校してきたカズくんがだるそうに声の主へと顔だけを向けて、でも歩くことは辞めないといった様子。
またお昼に登校してきてる…。
しかもまた…また修羅場だ…。
「よぉ」
この状況で私に声けるかな普通…
しかも昨日の今日で。
『…おはようカズくん』
「んだよ気まずそーな顔しやがって
昨日のこと気にしてんのか?普通にしろよな」
『気まずいっていうか私は…』
「ねぇ羽宮くんっ!!」
私の言葉を遮るように先程の声の主がもう一度カズくんの名前を呼んだ。今度はぐいっとカズくんの腕を掴んでいる。
この人3年生の可愛いって有名な先輩だ。
「なんすか先輩」
「昨日1年の女の子といたでしょ!?
私には1週間前から連絡くれないくせに!」
「いましたけど先輩に関係あります?」
「あ、あるよっ!
こんなの浮気だよ酷い!」
私が帰ったあと女の子と会ってたのか。
まあ元々その予定だったらしいし。
それにしても先輩めちゃくちゃ怒ってる。
カズくんには全然響いてなさそうだけど…
「…浮気?」
「そうよ!酷い!」
「彼女でもない人に浮気って言う権利あるの?俺たちって付き合ってましたっけ?」
「…付き合おうとは…言われてないけど。
でも、私は羽宮くんのこと…っ」
「はあ…俺1回寝たくらいで彼女ヅラする人マジ無理。もう俺に話しかけないでもらっていいすか。」
「ひ…どいっ」
「じゃ、俺昼飯食うんでサヨナラ。」
「ちょっと待ってよ羽宮くんっ」
先輩の声を無視したカズくんは何食わぬ顔でお弁当をもってこちらへ来る。
「さいってー!!」
廊下に響いた声さえ聞こえないふりだ。
「」
『あ、圭介くん』
ザワザワし始めた廊下を気にして教室から出てきた圭介くんに名前を呼ばれて振り返る。
「なにやってんだ一虎」
「ん?1回寝たくらいで彼女ヅラしてきてうぜぇから切った」
「あっそ」
「おう」
何事も無かったかのように3人でお昼を食べ始める。周りの視線は少々痛い。私に対してではないと分かっていても幼馴染が冷たい目で見られるのは胸が痛い。