第8章 トライアングル (三ツ谷隆 柴八戒)
『う…っうぅ、帰り…ったい』
「大人しくしてよーな?」
『や…三ツ谷く…っん』
「三ツ谷三ツ谷うるせぇなあ」
『う…っ、ごめんなさ…っい』
「泣いてる顔すっげぇ唆るワ」
ソファに座らされている私の目の前にしゃがんだ男の人が流れる涙をツーっと指ですくう。気味の悪い笑顔で見つめられて背筋がゾクリとした。帰りたい。三ツ谷くんは無事なのかな。
「お、みなみ〜やっと来た」
みなみ…?だれ…だろ。
「あの子ちゃんと連れてきた?」
「連れてきたって、ほらそこのソファ」
「全部上手くいったらあの子好きにしていいから」
「言われなくてもめちゃくちゃに抱くつもり
その為に協力してやってんだからな」
物陰から聞こえてくる会話にまた背筋がゾクリとなる。どこかで聞いたことがあるようなないような声…どこで…。
「それより三ツ谷の顔に傷つけてないでしょうね」
「絶対顔は殴るなってキツーく言ってあっから
きれーな顔のまま来ると思うぜぇ?」
三ツ谷くんが…目的?
あれ、この声もしかして…あっ。
――
「あんたなんかに三ツ谷はあげないから」
――
借り物競走から2人で戻った時のことを思い出す。三ツ谷くんを見つけるなり声をかけていた女の人がいた。たしか三ツ谷くんと同じクラスのキレイな人…名前は…分からない。
あの時の言葉…本気だったんだ…。
「じゃあ私は三ツ谷のとこに行こうかな」
「ん、愛しの三ツ谷に抱かれてこいよ」
「ふふ、下着も新しいのにしちゃった♡」
「あっそ、俺らは俺らでイイコトしてっから
邪魔すんじゃねーぞ」
「そっちこそねー」
え…やだ。やだよ。三ツ谷くんとあの人が…?
「あ、そうだ挨拶くらいしないとね」
近づいてくる1つの足音。
「こんばんはぁ?」
『…っ』
「ねぇもう三ツ谷に抱かれた?
キスは?手は?…答えろよ」
『…やめてくださ…っ!』
パシンと乾いた音と共に頬に痛みが走る。
「ちょっと三ツ谷に優しくされたからって
調子こいてんじゃねえぞブス」
『う…っみつや、く…たすけて…ぇ』
「三ツ谷の名前を呼ぶんじゃないわよ!
三ツ谷は私のものなの!邪魔しないで!!!」
『う…っひぐ、ぐすん…っ』
「せいぜいここで泣いてなさい」