第8章 トライアングル (三ツ谷隆 柴八戒)
《まもなく午後の部を再開致します。
借り物競争に出る生徒の皆さんは速やかお集まりください。繰り返します━━━━》
再びかかったアナウンスによって
ぞろぞろと校庭へ向かう私たち。
急ぎ足で前を歩く彼に声をかける。
『柴くん借り物競争頑張ってね!』
「おう、さんきゅ!」
今度は柴くんから差し出された拳に自分の拳をコツンとぶつけてグータッチをした。
「最近柴と仲良いね何話すの?」
隣を歩くクラスメイトが不思議そうに聞く
『んー…何話してるんだろ迷惑がられてるかも
私が一方的に話しかけてるだけだからなあ』
「まあ、あんたと話してる時の柴は楽しそうだなって私が見てても思うからいいんじゃない?」
『そう?それなら良いんだけどね』
自席についてまもなく
借り物競争に出る1年生が入場してきた。
スタート位置から100m先に設置された机と
その上に置いてある畳まれた紙。
競技が始まるといっせいに飛び出して紙を取りに行く。内容は眼鏡をかけている人や髪の長い人、日傘をさしている人や尊敬する先輩、などなど。借り物というよりかは借り“人”。周りを巻き込むだけあって毎年すごく盛り上がる。
この競技が毎年盛り上がるのにはもう1つ理由があって、並べられた紙の中に1枚だけ、生徒内では“ジョーカー”と呼ばれているものがある。
それを引いた人はもれなく2度見をしたあと立ち止まる。そして意を決した様に客席へと走るのだ。
今年の1年生のジョーカーは
《タイプの異性》
唯一、ジョーカーの内容を知る放送席の係の人がアナウンスをする。同時に盛り上がる生徒たち。困ったように立ち尽くしたその子が向かった先の生徒席はザワザワとしている。
聞くところ、その子が生徒席から連れ出した相手は恋人らしい。2人仲良くゴールをして、こっちまで微笑ましい気持ちになる。
1年生が退場するのと入れ替えに入場する2年生。
一際背の高い柴くんをすぐに見つけると
彼がこちらを見て視線がぶつかる。ひらひらと手を振ると小さく振り返してくれた。
2年生のジョーカーの内容はなんだろうか。
《位置について よーい パンッ》