第8章 トライアングル (三ツ谷隆 柴八戒)
席に着くなり、ガラッと教室の扉があいた。そこには少し息を切らした三ツ谷くんがいて、荷物をもってることから自分の教室へ向かう前に2年フロアに来たことが分かった。
柴くんを探しているのだろうか。
だけど彼なら
『柴くん今ちょうど御手「っ」』
『は、はいっ』
名前を呼ばれて弾かれるように
三ツ谷くんの元へと向かう足。
「八戒じゃなくてお前に用がある。
これ俺のハチマキな…交換してくれんだろ?」
『え…っ』
「なんだよ、昨日の約束はナシか…?」
気まずそうな悲しそうな表情の三ツ谷くん。
『えと、その為に走ってきたんですか…?』
「…あぁ。」
どうしよう嬉しい。
また浮かれてしまう。
正直来てくれないと思ってたから。
『わ、私のハチマキとってきます!』
「ん、」
くるんと背を向けて自席に置いてある荷物をあける。三ツ谷くんから手渡されたものと同じ色をした青いハチマキ。
『これ、私の…ですっ』
「さんきゅ、んじゃ行くわ!」
チャイムがなるまであと僅か。
ハチマキを受け取ると、反対の手で私の頭を撫でて三ツ谷くんは3年フロアへと行ってしまった。
昨日した約束なんてナシになったと思っていたのに。息を切らして真っ先に私の教室へ来てくれたのだと思うと嬉しくて仕方ない。たとえ妹のように思われていたとしても三ツ谷くんに頭を撫でられると嬉しくて、彼の言葉で傷んだはずの心もトクリと跳ねる。
「…」
『…っ柴くん?』
御手洗から戻ってきたであろう柴くんに声をかけられる。どうしよう。ニヤニヤしてるの見られたかも…!
「そ、それタカちゃんのハチマキ?」
『あ、うん。…見てた?』
「うん。話しかけようかと思ったんだけど、タカちゃん俺に気づいてなかったし急いでたみたいだから。」
『そっか…もうすぐチャイムなるし
三ツ谷くん急いでたのかもね。』
「タカちゃんと交換したんだね」
消え入りそうなほど小さな声。
もしかして柴くん…
『あ、え…ごめん柴くん!
私ってばなんで気づかなかったんだろう。三ツ谷くんのハチマキは柴くんが交換したかったよね…?』
「え、いや俺は別に…」
『いやいやだって2人すごい仲良いし…っ』
「俺が交換したいのは…っ」
キーンコーンカーンコーン
『なんて…?』
「…いや、なんでもない。」