ヴォード家に嫁ぎました!【ブラッククローバー / R18】
第6章 決意
フィンラルさんの空間に入ると、潮風の匂いが鼻についた。目の前の海は恐ろしく静まりかえり、月が道のようにくっきりと海面を照らしていた。白い砂浜はそうっと海によりそって横たわり、はるか弓なりに続いていった。
沈黙を包む波音がくっきりと鮮やかに聞こえてくるような気がした。目の前に開けた果てしなく大きな眺めが隠してきた気持ちを少しずつ広げていき、きれいな大気が心を満たしていった。
ランギルスさんにも見せたい。美しい景色も美味しい食べ物も全てを共有したい。ランギルスさんのそばで支えたい。もう自分に嘘はつけないんだ──…
「ミライさん」
フィンラルさんがわたしの名を呼ぶ。わたしはフィンラルさんの方に体ごと向くと、フィンラルさんと向き合った。薄暗い光の中で見えたのはフィンラルさんの真剣な眼差しだった。
「俺、ミライさんのことが好きです。お父様やお母様に認めてもらえるようにこれからも頑張るつもりです。もしよければ俺と婚約前提で付き合ってください。俺についてきてくれませんか…?」
砂浜に小さな波がたどり着いた。ざざぁと。潮風は夜の香りを含んで吹き渡り、わたしたちの髪を靡かせた。
フィンラルさんはわたしの顎を掴み、顔を近づける。そのときわたしは咄嗟に手を出して、フィンラルさんの肩を押した。
「ごめ…んなさい…わたし…フィンラルさんとはお付き合いできません」
「俺もすみません!まだ返事も聞いてないのに、キスしようとしたりして…」
フィンラルさんが悲しそうな声をしているのに気づいて、申し訳なく思ったが自分の気持ちに気づいた今、嘘をついていても失礼だと思った。
「ランギルスはああ見えて、きっと1人で苦しんでるんです。そのことにミライさんも気づいてくれたんですよね。俺はランギルスをそばで救うことができない。頼りないから…ランギルスが1人でヴォード家を継ぐのはすごく大変だと思う。ミライさんがランギルスのそばにいてくれるなら、俺は応援しますよ!」
フィンラルさんは笑顔でそう言った。
「フィンラルさんは本当にどこまでも優しい人です…ありがとうございます」
わたしはフィンラルさんの優しさにどこまでも助けられている。それでもわたしがそばにいたいのはランギルスさんなんだ。