C-LOVE-R【ブラッククローバー / R18】
第29章 C-LOVE-R
着物を着たきれいな女の人がわたしたちの席に、前菜とシャンパンを持ってきた。白い泡の立つ琥珀色の液体がグラスに注がれる。きめ細かい泡が絶えず立ち上がり、次第に消えていく。静かな店内に心地の良い発泡音が小さく響く。注ぎ終わると、ワインクーラーにボトルを入れた。
「ランギルスさん、お誕生日おめでとうございます。いつもは日本酒をお飲みになられておりますが本日は特別な日、ということでアンリオブリュットスーヴェランというシャンパンをご用意しました。辛口でキレもよく、お寿司とのペアリングをお楽しみください。」
グラスを持ち上げて、音を立てずに乾杯をする。
「ランギルス、お誕生日おめでとう」
「あぁ、ありがとう」
グラスから立ち上がる上品なぶどうの香りを感じ、一口飲むと酵母の香りが鼻に抜けていく。繊細な余韻が残る。キレのある喉越しに夢を見ているのではない、と思わせられた。
「さっきの女の人、きれいだね?」
「あの人は兄さんの婚約者のフィーネスさんだよ。会ったことない?昔、ヴォード家の時期当主の許嫁だった人だ」
「え……?そうなの?会ったことないよ?じゃあランギルスはあの世界であの人と……結婚した、の?」
そう思うと、少しがっかりしてしまう自分がいた。あのとき、ランギルスのそばにいられなかったから。あからさまにテンションが落ちたわたしの頭にぽんと手がのる。
「フィーネスさんは兄さんといっしょになったんだ。この世界でも昔の記憶を持ったまま出会って、また飽きもせず婚約してる」
「おい、ランギルス!飽きもせずって、俺は昔も今もフィーネスさんだけだ!」
「それはどうでしょう?昔も今も、呪われてますよね?相変わらず女たらしですし」
どうやら2人はこの世界では和解して仲良くなっているようだった。ランギルスは憎まれ口を叩きながらも、フィンラルのことが好きなのが伝わってくる。
「ランギルスはさ……ミライちゃんのことずっと探してたんだよ?俺もミライちゃんに会えてうれしいよ!俺の意識が戻る前に帰っちゃったんだから!」
「そうだな」
お寿司を握りながら呟くヤミさん。
「兄さんも店主も、余計なこと言わないでくださいよ……」
ランギルスは恥ずかしそうに顔を赤らめた。