• テキストサイズ

C-LOVE-R【ブラッククローバー / R18】

第27章 雨の夜





クラゲのトンネルの中へ入ると、ヴォード社長は足を止めた。


暗闇の中、わたしたちのいるトンネルだけが青く光っている。横を見ても、上を見ても、ゆらゆらと漂うクラゲの世界。ガラス越しにその様子を眺めていると、まるで夜の海の中にいるような錯覚になっていく。トンネルの中にはわたしたちふたりだけだった。


「あの……きれいですね、クラゲ……わたし……ヴォード社長と会うのは今日で最後にしようと思います」


そう言うと、ヴォード社長はわたしの方を見た。わたしたちは目が合った。青い光に照らされて、まるで海の中を泳いでいるかのようだ。


「さっき言ったよ、僕はもう二度と君の手を離さない、と」


「でも……さっき女の人と出てきたの見て……これ以上ヴォード社長といっしょにいたら、苦しくなるだけだと、そう思って……」


そう言って、わたしはヴォード社長の手をゆっくりと離した。だが、ヴォード社長は手を伸ばし、わたしの体を抱き寄せた。ふわりと香る、ヴォード社長の匂い。体から伝わる体温。心地よくて、懐かしいような、そんな気がした。


「君は、僕の想いを聞かずに……勝手に手を離して、また僕の前からいなくなるのかい?僕は君を、ずっと探していたんだ……何百年も」


ヴォード社長はそう言うと、わたしを抱く腕の力がさらに強くなった。わたしは黙って聞いていた。なぜか腕を振りほどくことができないでいた。


「僕は君と約束した。世界が平和になったら、必ず君のいる世界に迎えにいく、と……君は僕が何を言ってるのか理解ができなくていい。気が遠くなりそうなほど前からずっと、君だけを、想ってきた」


まるで、ふたりだけが世界から切り取られたようだった。


─────────────────────


「いつか、君のいる世界で会えたなら、もうこの手を、離さない。この世界が平和になったら、僕は何百年かかっても、君を探しにいく。だから、本当の僕のことを、忘れないでいてくれるかい。君の記憶が消えても、君の中で君だけが知っていてほしいんだ」


「マユ……僕を、本当の僕を、好きになってくれて、ありがとう」


その言葉のあと指が順に解かれ、最後のひとつが離れた瞬間、わたしは真っ暗に吸い込まれた。最後まで繋いでいてくれた手の温もりだけを残して。わたしは大切な記憶を置き去りにしたまま、時は過ぎた。



/ 233ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp