C-LOVE-R【ブラッククローバー / R18】
第27章 雨の夜
わたしはヴォード社長に背を向けて、駅に向かおうとした。背後から手を引っ張られる。
「こんな雨の中、帰すわけにはいかないよ」
ヴォード社長にそう言われ、その場で黙ってしまった。こんな気持ちのまま、何を話せばいいのかわからない。こんなに胸が痛くなるのなら、もう会わない方がいい、そう思った。
「手……離して……くだ、さい」
ヴォード社長の顔が見れずに、俯いたままでそう言った。
「いや……僕はもう二度と、離さない」
雨音の中、ヴォード社長のその言葉がはっきりと聞こえた。わたしの手を握る力が強くなった気がした。
「……」
「ほら、乗って?」
そう言われるがまま、車に乗った。車の窓についた雨の粒が虹色に輝いていて、ただただそれを眺めていた。どこへ向かうのかも、わからない。わたしたちは黙ったままだった。“もう二度と離さない”とはどういう意味なのだろう。
しばらくすると、車は地下に入っていった。
「着いたよ」
ヴォード社長にそう言われ、車を降りると、そこはどこかのビルの地下駐車場だった。ヴォード社長は何も言わずにわたしの手を引き、エレベーターに乗った。屋上へと上がるようだ。
「あの……もう、19時50分ですよね……それにこんな雨の日に屋上って……」
「……」
ヴォード社長は黙ったままだ。エレベーターの機械音だけがやけに耳に響いている。
屋上でエレベーターが止まり、扉が開いた。
「屋上に、水族館……?」
「あぁ、ここは20時までに入場すれば21時まで見れるんだ」
ヴォード社長はそう言ってわたしの手を引いたまま、事前に用意をしてあったチケットで館内に入っていく。館内は少しひんやりと感じた。照明が落とされていてとても薄暗く、時折、水音がどこからともなく聞こえてくるだけの静かな空間だった。
大きなガラス張りの水槽を眺めながら、ゆっくりと進む。どうしてずっとわたしの手を握ったままなのだろう。わからない。ヴォード社長のことが。水槽の中泳ぐ魚のように、遠くに感じた。今日は平日の夜だからか、わたしたち以外に人は見当たらない。
しばらく進むと、“海月空間”というエリアがあった。そのエリアはさらに暗闇だった。大きなパノラマの水槽にたくさんのクラゲが青い照明に照らされて、ゆらゆらと漂っていた。