C-LOVE-R【ブラッククローバー / R18】
第27章 雨の夜
〝本社の前で待ってます〟
Luneのエントランスの前に着き、ヴォード社長にそう連絡をする。あれから返信はなかった。
傘に当たる雨音が、どんどん強くなっている気がした。今夜は大雨になる、と夜中のニュースで言っていたのを思い出す。おとなしく会社で待っていた方がよかったかもしれない。でも、いつも迎えにきてもらってばかりだし、早く会いたくてつい来てしまった。こんな気持ちになるのは────……
しばらくすると、エントランスの扉が開いた。
わたしは邪魔にならないように端の方にいるので、向こうからは気づかれないようだ。薄暗い明かりの中でよく見ると、ヴォード社長だ。その隣には、背が高くスタイルのいいきれいな女の人がいる。ヴォード社長とその女の人はとても距離が近い。
「今日はありがとうございました。連絡待ってます。今度はふたりで会ってくれるんですよね?」
「あぁ」
ふたりはその言葉を交わし、女の人は去っていった。
わたしは見てはいけないものを見てしまったのだろうか。そもそも、わたしはヴォード社長と付き合っているわけではないし、何も言う権利はない。仕事の付き合いかもしれないし、ヴォード社長の彼女になる人かもしれない。わたしなんかよりも、きれいでスタイルがよくてお似合いだ。
わたしの前ではありのままでいてほしい、なんて何を考えていたんだろう。彼はやっぱり社長だし、わたしなんて遊びだったのかもしれない。わかっていたことなのに、悲しくなる。ヴォード社長の隣は信じられないほど居心地がよくて安心した。出会ったばかりだというのに、まるでずっといっしょにいたような感覚と懐かしさがあって。
わたしの心の中のように、雨が一層強く降り始めた。ザーザーと音を立てて地面のアスファルトを打ち付けている。お気に入りのワンピースの裾が濡れてしまっている。もう、そんなこともどうでもいいくらいにぼーっと反射する街の明かりを眺めていた。
「……ミライ?」
聞き慣れた声がした。顔をそちらに向けると、そこにはヴォード社長がいた。わたしは何も言葉が出てこなくて、黙ってしまった。
「来てくれてたんだね……こんな雨だし僕が迎えにいくのに……遅くなってすまない」
そう言って、助手席のドアを開けた。
「あ、あの……今日は帰ります……」