C-LOVE-R【ブラッククローバー / R18】
第26章 遥か未来へ─ランギルスside─
「相変わらず……?こないだ初めて会ったはずですよ?もう、何言って……誰と勘違いしてるんですか、ふふ」
ミライはそう言って、少し困った顔で笑う。その言葉が僕の心に突き刺さる。やはり憶えていないのだ、と。信号が青になった。
銀座に着き、駅の近くのコインパーキングに車を止めた。すずらん通りを歩く。
「今日は久しぶりに晴れてよかったですね」
「あぁ」
上辺だけの会話をしながら、僕の行きつけの紅茶の店に着き、中へと入る。3階建の建物で2.3階はカフェ、1階には紅茶の茶葉が販売されている。パリの雰囲気が漂うクラシカルな内装だ。
「こんなにあるんですか……?迷っちゃいます……どうしよう」
そう言って、紅茶のメニューを眺めるミライ。それもそうだ。この店のメニューには世界35か国の600種類以上の紅茶が書かれている。昔、ミライとアフターヌーンティーに行ったことを思い出す。悩んでいるミライがかわいくて、僕が見ていると、ミライが僕の視線に気づいた。ミライは顔を赤らめ、目を逸らした。
「あ、あの……ヴォード社長のおすすめはありますか?決められなくて……」
「テアプレロラージュはどう?雨上がりをイメージしたお茶だよ」
── THE APRES L′ORAGE テ アプレ ロラージュ 雨上がりのお茶──
お茶の時間、心のどこかの記憶を迫る香り。地にしみた雨水が和らいだ香りを目覚めさせ、さわやかさと安らぎで空気を埋め尽くす。
「雨上がり……?じゃあ、それにします」
「僕はホットにするけど、君は?」
「あ、同じで……」
「ケーキは何が好き?あそこにケーキワゴンがあるから、好きなの選んできなよ」
僕がそう言うと、ミライはケーキを選んだ。
注文すると、わりとすぐにケーキ、紅茶がポットで運ばれてきた。カップに注ぐと、液体の落ちる柔らかい音と、温かい靄のような湯気がテーブルの上を漂った。テドゥルヌのオリエンタルさはなく、テアプレロレージュは爽やかな香りが特徴だ。ミライが注文したケーキはレモンタルト。僕はチェリータルトだ。
「チェリータルトがお好きなんですね」
ミライは僕のことを知らない。紅茶が好きなのも、チェリータルトが好きなのも。