• テキストサイズ

C-LOVE-R【ブラッククローバー / R18】

第26章 遥か未来へ─ランギルスside─





僕は扉を開けると、そこにいた女と一瞬だけ目が合った。その瞬間、時が止まった気がした────……


女は焦った様子でくるっと振り返り、会議室の方へと向かっていく。異様なまでの胸の高鳴りを抑えつつ、僕がここで何をしていたのか、と聞くと、その女は振り返った。


「あ、あの……打ち合わせに来て……そ、それで……お手洗いに……」


しどろもどろに答える女の顔をもう一度よく見た。この直感を信じてもいいのだろうか。フェミニンなブラウスにハイウエストのマーメイドスカートを着こなし、ポインテッドトゥのヒールを履いた、大人の女だった。ヒールを脱いだら、きっと背は僕より低いが、ボディラインを魅せる服装をしているためか姿勢もよくスタイルがよく見えた。人気アパレルブランドの本社勤務だ、自分の“魅せ方”がわかっているのだろう。見た目は大人の女だが、彼女からは僕の記憶にある面影を感じた。


トイレは反対方向だ。彼女は社長室の前で立ち尽くしていた。僕は期待で胸が膨らんだ。僕のことを憶えているのかもしれない、と。僕に何か用があるのか、と聞いた。


「あ、すみません……その、なんでもないんです、ただ、懐かしい香りがして、つい……」


彼女はそう言った。また鼓動が高鳴る。僕はテドゥルヌを淹れていたからだ。この香りに気がついた、なんて彼女の記憶は残されたままなのだろうか、と淡い期待を抱いた。あのとき、真実の愛で繋がる道で異世界へ行くと、前の世界の記憶が抹消される、と言っていた。抹消されていないのか?僕のことを憶えているのだろうか。君は本当にミライ、なのか……?その期待を胸に、逸る気持ちを抑えながらなるべく自然に会話する。仮に憶えているとしても、向こうは僕に気付いてないだろう。怪しまれたら本末転倒だ。そう思い、紅茶が好きなのか、と聞いた。


「いえ……紅茶のことは全然知らないんですけど……わたしの記憶の中に確かにこの香りが……ってわたし何言って……打ち合わせに戻らないとならないので失礼します!」


彼女はそう言って一礼し、僕に背を向け、会議室の方へと向かおうとした。僕は咄嗟に彼女の腕を掴んだ。先ほどよりも近い位置で彼女と目が合い、首元で揺れる小さな“四つ葉のクローバー”を見つけて言葉を失った。期待が確信へと変わったのは一瞬だった。僕の心臓は壊れそうなほど音を立てている。



/ 233ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp