C-LOVE-R【ブラッククローバー / R18】
第25章 ゆめうつつ
ガチャッと奥の部屋の扉が開いた。その音にハッとする。まずい、と思い、会議室の方へと戻ろうとすくんだ足を動かした。
「君……、ここで何をしているんだい?」
背後から男の人の声がして、振り返る。そこにはお洒落なスーツを着た栗色のふわっとした髪の毛の若い男の人がいた。わたしより少し、年下だろうか。背はそれほど高くない。随分と毛量の多い髪型に目がいってしまう。この会社の社員だろうか。
「あ、あの……打ち合わせに来て……そ、それでお手洗いに……」
しどろもどろでそう答える。
「お手洗いは向こうだぞ?ここは社長室だ、僕に何か用でも?」
その男の人にそう言われて、ようやく気づく。この男の人は今、社長室から出てきた。ということは、この男の人が社長、なのだろうか。上司がさっき言っていたことを思い出し、早くこの場を去ろうと思った。
「あ、すみません……その、なんでもないんです、ただ、懐かしい香りがして、つい……」
そう言うと、その男の人は驚いた顔をした。
「僕は今、紅茶を淹れていたから、その香りじゃないかい?それにしても……僕が飲んでいる紅茶は、珍しい銘柄なんだ。それを懐かしい、なんて……君も紅茶が好きなのかい?」
「いえ……紅茶のことは全然知らないんですけど……わたしの記憶の中に、確かにこの香りが……ってわたし何言って……打ち合わせに戻らないとならないので、失礼します!」
そう言ってこの場を去ろうと、その男の人に一礼をし背を向け、足早に会議室へと足を動かした。だが、背後からぐいっと腕を掴まれる。振り返ると、先ほどの男の人が目の前にいた。その男の人と近くで目が合うと、澄んだ青い目をしていた。その男の人はわたしの首元のネックレスを見るなり驚いた顔をして、わたしの腕を掴む力をぐっと強めた。
「あ、あの……どうしたんですか?」
「君は……そのネックレス……どうしたんだ?」
「へ……?これは……」
ピルルルル────……
その瞬間、わたしの言葉を遮るようにその男の人のスマホが鳴った。その男の人はわたしの腕を離し、はぁ、とため息をついた。
「僕は君と話したいんだ。打ち合わせが終わって直帰なら、帰りに社長室にくるように」
その男の人はそう言って、鳴り止まないスマホを取り出し、電話をしながら社長室へと戻っていった。