C-LOVE-R【ブラッククローバー / R18】
第25章 ゆめうつつ
家に着くと、すぐにお風呂場へと直行した。そのとき、鏡に映った自分の首に、見知らぬネックレスがついていることに気がついた。四つ葉のクローバーをモチーフにした小ぶりなネックレス。自分で買った記憶も、誰かにもらった記憶もなかった。不思議に思ったが、なぜか外す気にはならなかった。
お気に入りの入浴剤を入れ、キャンドルを炊いて、ゆっくりと湯船に浸かった。ネックレスのことをぼーっと考えていた。何にも思い出せないのに、温かくて優しい記憶が蘇ってくる。誰かを愛して、誰かに愛された、そんな記憶がわたしの奥に確実にあるのだ。彼氏にフラれたはずなのに、この記憶は一体────……このクローバーのネックレスの贈り主は誰なのだろうか。
お風呂から上がり、携帯を取り出そうとバッグを見ると、その中にも見知らぬものが入っていた。広げてみると、どうやらローブのようだ。某映画に出てくる魔法使いが着るような、真っ黒なローブ。胸元には牛のマークがついている。思わずハンガーにかけて、じっと眺める。
「これは……何……」
ひとり暮らしの静かな部屋に、わたしの声が響いた。どうしてこんなものがバッグに入っているのだろうか。思い出そうとしても、肝心な記憶がないのだ。ネックレスと同じように、ただ漠然とした温かくて優しい記憶だけが、蘇ってくるだけだった。この記憶の正体さえ、わからない。思い出せるように、このローブはしばらく飾っておくことにした。
ふと時計を見ると、午前2時。今日、わたしは旧い自分を捨てて、新たな自分になろうと決めた。封筒に“退職願”と書く。静かな部屋にボールペンの音がやけに耳に響いた。もう夜が怖くない。自分がやりたかった仕事をしたい。それは、大好きな洋服のブランドで働くことだ。店舗で働いて、いずれはプレスとして本社で働きたい、そんな夢をずっと描いていた。自分が変わらなければ何にも変わらない。諦めていたら、何にも始まらない。誰かに後押しされているような、そんな気がした。