C-LOVE-R【ブラッククローバー / R18】
第25章 ゆめうつつ
わたしの手を誰かが握っていてくれているような気がする。
この感覚は確かにわたしの記憶にある。
その掌から伝わる体温も、優しくわたしの手のひらを包み込む感覚も。
愛おしくて、温かくて、心地いい。
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「お客様、お客様?終点ですよ。」
誰かがわたしの肩を揺らしている。ゆっくりと意識が戻ってきて、夢うつつでぼんやりとした視界の中には困った顔をした車掌さんの姿が映った。ここは電車の中だった。辺りを見回すと、車掌さんとわたし以外人の姿は見えなかった。
「……へ?あれ?あ……終点?すみません……今降ります!」
わたしはそう言って、急いで電車を降りた。随分と長く眠った感覚があり、体全体が心地よく痺れている。真夜中の冷たい空気に晒されて、段々と感覚が戻ってくる。そうだ、わたしは親友と飲んで終電に乗って……どうやら寝過ごしてしまった。夢を見ていた気がする。どんな夢を見ていたんだっけ。ついさっきまでその夢の中にいたのに、どんなだったかもうよく思い出せない。
この駅はわたしの住む町からは離れている。終電なのに寝過ごしてしまったため、タクシーで帰るしかなかった。彼氏にフラれた腹いせにかなり飲んだ記憶がある。嫌なことは飲んで忘れるなんて、やりたくもない仕事をする毎日なんて、わたしの人生このままでいいの?ふと、そう思った。駅のホームに月明かりが差し込んで、真夜中なのに明るい夜だ。
「満月か……きれい」
誰もいない駅のホームでそう呟いた。彼氏にフラれたはずなのに、さっきまで生きる意味さえわからないと嘆いていたのに、なぜかわたしの気持ちは前を向いていた。今日の満月のように、明るくて希望に満ちていた。なぜだろう。わからない。何かが変わる気がした。何も変わらない夜に。人混みに紛れていたわたしは、流されて生きていた。そんな自分にさよならしよう、そう決心した夜だった。