C-LOVE-R【ブラッククローバー / R18】
第24章 守りたい人
────ラクエの海
ランギルスは森で会ってから、一度も目を合わせてくれない。手は繋がったままなのに、返事も素っ気ない。ただ沈黙が流れた。白く泡立つ波打ち際。濃い潮の香り、ざらざらした砂の感触。海の向こうの遠い水平線上の月に向かって、月明かりの道がのびている。
沈黙を包む波音だけがくっきりと鮮やかに聞こえてくるような気がした。目の前に開けた果てしなく大きな眺めが悲しみや不安を包み込んで、きれいな大気が心を満たしていった。静かだった。永遠の、世界が終わるような、そんな、夜────……
「ねぇ、どうして、目を見てくれないの?」
静かな海にわたしの声だけがやけに響いた。
「君の顔を見たら、自分の決断が揺らぎそうな気がしてね……僕は、この手を離せなくなるかもしれない。僕がこの手を離さなければ、君を守ることはできない。君を守りたい、と思ったあの日から、ずっとこの日が来るのが怖かった。情けないね……本当は、本当の僕は、こんなにも弱かったなんてね……」
ランギルスは切なげな声でそう言った。
「あのね……渡したいものがあるの……」
「僕に、渡したい、もの……?」
わたしは繋いだ手を一度離して、バッグの中からネックレスの箱を取り出した。
「これ、ランギルスに」
そう言って渡すと、ランギルスは箱を開けた。
「これは……、君と行ったお店で見た……」
「うん、フローライトっていう天然石で、お守りとして贈るもの、って聞いて……わたし、ランギルスのこと、離れていてもずっとそばで、守っていられたら……って思ったの」
そう言うと、ランギルスは今日初めて、わたしの方を向いた。そして、目が合った。
「あ、やっと、見てくれたね」
うれしくて、自然と笑みが溢れる。月明かりに照らされて、ランギルスの掌でフローライトが輝いた。ランギルスの顔を見ると、目尻からは一筋の涙が輝いていた。怖くていい、弱くていい、泣いてもいい、わたしの前でありのままでいてくれるなら。ランギルスと同じように、愛しているから、守りたいと思った。離れていても、ずっとそばで。少し背伸びをして、ランギルスにそっと口付けた。ざざぁっ、と波音が耳に響いた。潮風は夜の香りを含んで吹き渡った。わたしたち2人だけの世界のようだった────……
「ずっと、そばにいるよ」