C-LOVE-R【ブラッククローバー / R18】
第24章 守りたい人
────23時過ぎ、アジトの扉をとんとん、と叩く音がした。
送別会のあと、共有スペースで団員のみんながいっしょに待ってくれていた。この扉の向こう側に、ランギルスがいる、はずだ。この扉を開けたら、団員のみんなと本当のさよならだ。黒の暴牛のローブと、ランギルスに渡すネックレスの箱を、トリップした日に持っていたバッグに詰めた。
「みんな……行くね……」
そう小さな声で呟き、扉の前で立ち止まった。
「別々の世界だとしても、俺たちは今を、生きてる。この世界の記憶がなくなったとしても、お前はもう、大丈夫なはずだ。前を向いて、生きろ、よ」
ヤミ団長はそう言って、背後からわたしの頭をぽんっと撫でた。その言葉に、その手の温かさに、涙で視界が滲んだ。みんなの顔を見たら堪えている涙が溢れそうで、そのまま扉を開けようとしたが、最後は笑顔でさよならしたかった。そう思い、振り向くと、ヤミ団長はふっ、と口元を緩ませた。その後ろでみんなが言った。またいつか、どこかで会おう、と。
「うん、またいつか……」
精一杯の笑顔でそう返したが、目尻からは堪えていた涙が溢れた。
団員のみんなに見送られ、ドアを開けると、森の奥に人影が見えた。夜の森は静かだった。わたしの息づかいが、靴音が、やけに耳に響く。ひゅうっと、風が吹いて葉を揺らした。木の枝の隙間から月の光が差し込んで、導いてくれているようだった。木に寄りかかるランギルスの姿が見えた。
「……ランギルス?」
「あぁ、行こうか」
そう言って、わたしの手を握った。わたしたちは黙ったまま、手を繋ぎ、森の中を抜けていく。動物たちや鳥たちが息を潜めて、わたしたちが出ていくのを待っているようで、森の中は重苦しい空気が流れている。森の中は少し、肌寒かった。繋いだ手と手だけが温かかった。離れないように、ぎゅっ、とランギルスの手を強く握った。森を抜けると、川に出た。ゆらゆらと揺れる水面の月はわたしたちの心のようだった。
「きれいだね」
「あぁ」
その言葉だけを交わして、ランギルスは空間魔法を出した。手を繋いだままその空間に入ると、潮風の匂いが鼻についた。心地よい波の音が耳に響く。ランギルスが出した空間で同じ場所に、行ける。手を繋いだまま、同じ歩幅で。ランギルスがわたしの手を離さない限り、ずっと。