第19章 花火大会
その後、夕子ちゃんと別れ、私は女の子の手を引いて歩き出した。
案内所は人の流れとは逆方向にある為、女の子を庇いながら歩く。
小さい子にとって、これだけの人混みの中を歩くのはさぞ怖いだろう…。
私は気を紛らわせるように女の子の耳に顔を寄せて話をした。
「私、ともみって言うんだけど、お名前何ていうの?」
「・・・もも。」
「ももちゃん?可愛い名前だねー。今日は誰と一緒に来たの?」
ももちゃんは俯いたまま、消え入りそうな声で呟いた。
もも「・・おねーちゃん。」
「そうなんだ。おねーちゃんと来たんだねー。」
おねーちゃん。
子供2人で来たのかな…。
だとしたらおねーちゃんの方は大丈夫なのだろうか…。
案内所にいてくれると良いんだけど。
その時、チリンチリンと鈴の音が聞こえた。
ふと視線を落とすと、ももちゃんが肩から下げていたポシェットに鈴の付いたキツネのキーホルダーが付いていた。
「キーホルダー、可愛いね。キツネ、好きなの?」
ももちゃんはキーホルダーをぎゅっと握り頷いた。
もも「・・死んだお母さんが好きだったから。」
私は目を見開いた。
すぐに言葉が出て来なくて、ようやく「そっかー。」と返事を返した。
視線の先に案内所の看板が遠くに見える。
ここまで来ると人はだいぶ減り、並んで歩きやすくなった。
「私もね、お母さん死んじゃっていないんだー。」
ぽつりと話し出した私をももちゃんが見上げた。
もも「・・・そうなの?おとーさんは?」
「お父さんもいないの。」
笑みを浮かべて話す私を、ももちゃんは今にも泣きそうな顔で見ると繋いでいた手にぎゅっと力が入った。
もも「・・ももと一緒。」
「・・・そっか。ももちゃんと一緒かー。」
表面的には笑いを貼り付けてるけど、気を抜くと今にも泣いてしまいそうだった。
まだこんなに小さいのにお父さんもお母さんもいないなんて。
ももちゃんの気持ち、痛いほどわかるよ…
寂しくて寂しくて堪らないのもわかるから…
ぐっと奥歯を噛み締めた。