第8章 《山崎退 ~ハッピーバースデー~》
近頃、屯所に毎日同じ届けものが来ていて噂になっている。
宛先は真選組。個人名はない。差出人の名前もない。
中身を聞いた者は、必ず俺を見る。送られて来るものが毎回同じ、あんパンだから。
《君のあんぱんに恋してる》
個人名が記されていないというのに、宅配を受け取った者は必ず俺に渡す。
「どう考えても、あんパン好きのお前宛てに決まってんだろ」
と、みんな決めつけて置いて行く。
何度も言うが、好きじゃねーよ。
そんなわけで、俺の部屋の机には、あんパンが山積されている。俺は一つも口にしていない。
差出人不明の食べ物など、気味が悪くて食べられるわけがない。
たとえ差出人名があったとしても、毒殺を謀った攘夷浪士の罠ということだって有り得る。
それでも、本当に贈り物だったらと思うと、捨てるのは忍びない。
とはいえ、あんパンは食品。賞味期限が切れたら、どっちにしろゴミになる。
そう思い、俺は六個のあんパンを見た。そして気がついた。
今まで送られて来た六個とも、賞味期限が明日の日付になっている。
明日、ニ月六日。それは俺の誕生日だ。
まさか、これらは全部、俺への誕生日プレゼント……?
差出人は俺の誕生日を知っている者。これは、攘夷浪士の仕業なんかじゃない。
だとしたら、明日は……
「山崎さん、また届いてますよ」
いつもと同じ小包が屯所へと届けられ、これまた同じく俺へと届けられた。
中身を見た。予想は当たった。
二月六日、七回目の宅配物には、一通の文と箱が同封されていた。