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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



「光秀さん、ちょっと鴇くんを厠に連れて行きますね」
「いや、俺がついて行こう」
「すぐそこなので大丈夫ですよ。行商人さんの話だと、その角が木工細工の工房らしいですし、先に臣くんと行って見ていてください」

その方が鴇くんも喜ぶと思います、と凪が付け加えた言葉の意味を、光秀はすぐに理解した。元々木工細工の工房を訪ねるのは、秀吉への土産と光鴇の硯箱を買い求める為だ。幼子がいない間にこそりと選んでおいた方が、より喜ぶ筈だという妻の言葉に光秀が頷き、了承の意を示す。

「分かった。何かあれば声を出せ。すぐに駆けつける」
「はい、臣くんもよろしくね」
「お任せください、母上」

父母、そして兄が言葉を交わす様を何とも言い難い顔で見上げていた光鴇が、ますます切羽詰まった様で凪の袖を再びくい、と引っ張った。普段の明朗快活さはすっかり失われ、幼いながらも必死に尿意との格闘を繰り広げている光鴇が、再びぼそりと告げる。

「……とき、たいへん……」
「わあー!もうちょっと頑張ろうね!?行ってきます……!!」

既に限界に近い息子を見て、凪が慌てた風にその小さな身体を抱き上げた。そうして急ぎ足で集落の厠がある方へと小走りで駆けて行く。遠ざかる二人の姿を暫し見つめ、光秀と光臣は先に行っているよう頼まれた、木工細工の工房へと足を向けたのだった。



「はあー……間に合って良かったね、鴇くん」
「うん。とき、もらさなかった」
「我慢出来て偉いよ。でも次はもうちょっと早めに言おうね。近くに厠がなかったら大変だから」
「わかった!」

光鴇の厠事件からしばらくの後、無事用を済ませた幼子とそれに付き添った凪が雪道を歩いていた。集落の厠は光秀達がいるであろう木工細工の工房から少々離れた場所にある。さすがに排泄物を溜めておく場所を集落の中央や民家の真横へ置く筈もない為、それらとは少し距離があったのだ。

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