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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



「これで足りるか」
「じゅ、じゅじゅじゅ十分です……!!!毎度ありがとうございます!!!どうぞお持ちください!!」

人は誰しも金色に輝く貨幣の前では動揺を露わにするものなのか。不自然な程にどもった行商人が恭しい手付きで金子を一枚受け取り、そそくさと己の懐へしまい込んだ。そうして、弟切草と件(くだん)の風藤葛を大きめな笹の葉に包んで渡して来る。

「ありがとうございます、行商人さん」
「おくすりたくさん、ありがと!」
「礼なんてこちらの方が言い足りないくらいですよ……!そうだ、奥方様がたは温泉目当てで来られたとの事ですが、礼代わりにひとつ面白い話をお聞かせ致しましょう」

人の良い笑顔を浮かべた行商人が、腰を低くしながら何度も礼を述べた。そうして、何事か思いついたと言わんばかりに表情を明るくすると、ひとつの伝承語りを始める。

それは、先日の公開手習い時に顕如が聞かせてくれた豆まきの起源となる話とほとんど同じであり、その伝承発祥の地がこの近隣の山だという事を明かした。つい最近耳にしたばかりの話が生まれた地に、何の因果か訪れたというのは不思議なものである。

「まさかあの豆まきの伝承が、この近隣で生まれたものだなんて驚きました。しかも天岩戸(あまのいわど)と思わしきものまであるとは……」
「まめまき、かみさまかわいそう……」
「日ノ本で古来より続く巨石信仰は今も尚、様々な場所で受け継がれていると聞く。普段気付いていないだけで、存外身近なものだったという事だろう」
「そうですね。雪が降ってなければ、その天岩戸って言われている岩、見に行ってみたかったです」

天岩戸と呼ばれ、近隣からも信仰されているそれは人の手では到底動かす事も、切り出す事も不可能な岩座(いわくら)に見立てた巨石だという。一説では天岩戸隠れで天照大神が隠れたのも、そこなのではないかと言われている程に、この辺りでは名の知れた場所らしい。

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