❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第7章 おしえて、ちちうえ!
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「とき、しりたいこと、ある!」
夕餉を終えて家族四人でまったりと過ごすひと時。
光秀が家族への土産にと買って来た大福を、両手に持っていた光鴇(みつとき)が口の周りに白い打ち粉を付けながらすくっと立ち上がり、冒頭の科白を述べた。幼子が唐突なのは、何も今に始まった事ではない。同じく大福を食べていた兄の光臣(みつおみ)が、食べ物を持ちながら立ち上がった小さな弟をたしなめる。
「こら鴇、食べている途中で立ち上がっては駄目だろう」
「むっ、ごめんなさい」
「言葉と感情が合ってないが」
八歳年上の兄の事が好きな割に、時折妙な反抗心を覗かせるらしい幼子が、ぎゅっと眉根を寄せて畳に座り直した。小さな足で胡座をかいた様を見た凪が、兄弟のやり取りを見て微笑ましそうにくすくす笑う。
「臣くんの言う事聞いていい子だね、鴇くん。それで、知りたい事って何かな?」
「ははうえ、おしえてくれる?」
「えっ……私に答えられる事だったらいいんだけど……」
改めて幼子の疑問に向き合う姿勢を見せると、光鴇が眸を心なしかきらきらと輝かせて母を見やる。その純粋無垢な眼差しに若干気圧され、凪が言葉を軽く濁した。その一連の光景を文机前に座りながら見ていた光秀が、ふとくすりと小さく笑って机上に頬杖をつく。
「仔栗鼠のささやかな疑問ならば、そこまで身構える事もないだろう」
「そ、そうですね……!お母さんなんだし、その位出来ないと!」
「その意気だぞ、凪。頼りになる母で何よりだ」
「父上……完全に高みの見物を決め込むつもりですね」
「まさか」
光秀に乗せられた形となった凪が一人気合いを入れ直す中、光臣がちらりと半眼で父を見た。明らかに状況を愉しんでいる雰囲気の光秀が、瞼を伏せて肩を竦める様はどうにも胡散臭い。そんな中、光鴇が母へ向き直った。今は【しりたいこと】とやらに興味が向いている所為で、大福を食べる事すら忘れているらしい幼子が、大きな金色の猫目に多大な興味を浮かばせて問う。