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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第6章 人酒を飲む、酒酒を飲む、酒人を飲む



手に取るように分かる彼女の想いを真っ向から受けて、男の内側で熱と欲が込み上げる。じり、と身体の芯が凪を求めて熱くなり、やはり自分を乱れさせるものはこの世で一人しかいないのだと、吐息混じりに笑みを零した。

「さて、先程お前は、俺が酔ったらどうなるか想像したと言っていたな」

一度瞼を伏せた後で眼差しを静かに凪へと流し、光秀が問いかける。金色の双眸には隠そうともしない微熱が滲んでいて、それを認めた彼女の鼓動がどくりと跳ねた。質問に対しておずおずと頷き、男の熱のこもった眸を見つめ返す。

「……言いました。だってその、一度も見た事ないですし……」
「本当にそうと言い切れるのか?」

凪の鼓膜を揺らす低く潤った声は、ほんの少しだけ意地悪な色を帯びていて、それを覆い尽くさんばかりの愛しさが滲んでいる。手にしていた盃を優しくそっと取られると、光秀がひんやりとした大きな手のひらで凪の片頬を包み込んだ。

「ならばお前の想像したものが正解か、答え合わせをしてみるとしよう」

頬を包んでいた手のひらが、する、と静かに小袖の合わせへ流れていった。衿を丁寧な所作で少しだけ乱し、光秀が囁きかける。

(……本当は答え合わせなんてしなくても、ちゃんと知ってる)

それが単なる自惚れではないのだと、彼と過ごす日々の中でとっくに知らしめられていた。酒では理性を飛ばす事なく酔わない光秀が、自分にこうして甘やかに触れている時だけはまるで、熱に浮かされたような眼差しで見つめて来るから。

「今宵も目一杯、朝が白むまで俺を酔わせてくれ」

指先が誘うように、ほんの少し乱した衿元の隙間から覗く白い肌を撫でる。神仏と繋がる為でもなく、羽目を外す為でもない。

ただ一人、己を満たし溺れさせる事の出来る愛しい存在へ酩酊する為、光秀は乞うように彼女の濡れた甘やかな唇を奪ったのだった。




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