❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第3章 世の中は九部が十部
───────────────…
瞼の裏に光が射し込み、思いのほか深い眠りの淵から意識が呼び起こされる。重々しい瞼を緩慢に持ち上げた先、視界が寝起きの所為で僅かに不明瞭であったものを鮮明にするべく、幾度かそれを瞬かせた。最初に視界へ映ったのは、愛らしい連れ合いの、安心しきったあどけない寝顔だ。夜が白むまで、という程大袈裟でもないが、それでも昨夜それなりに無理をさせた自覚はある。少し寝乱れた凪の黒髪が頬へかかっているのを、指先で軽く払ってやった。
(よく眠っている。まだ起床するには少々早いな……もう暫く寝かせておいてやるとしよう)
俺の腕を枕にしたまま、横向きの体勢で眠る凪からは、起こすには忍びない程の安らかな寝息が小さく聞こえてきている。どの道明け六つ(6時)にもなっていない時分だろう。この娘の疲労を思えば、今暫く休ませてやりたいと思うのも当然の事であり、その間、楽しみのひとつである愛しい連れ合いの寝顔を堪能する事に決めた。
(……近頃はまた城下で季節風邪が流行っていると聞いた。大きな流行病程ではないが、城内でも忙しなくしている姿を見かける。たまにはゆっくり休めと言いたいところだが、責任感の強いこの娘は恐らく聞き入れないだろうな)
調薬室で調薬師として働き始めて以来、凪は日々を中々に充実して過ごしているようだ。元々、この乱世に己の役割を見出して残ったとあり、仕事をこなす凪は多忙の中でも楽しそうにしているが、夢中になると刻を忘れるきらいがある。たまには適度な息抜きも必要だと、昨夜は久しく凪の為に茶を点ててやったはいいものの……たったそれだけの事で嬉しそうにするこの娘が愛らしく思え、触れずにはいられなかったという顛末だ。
気付けば帯を盗んで柔らかな肌を暴き、奥深くまで求めてしまっていた。何かと互いにすれ違いの日々を送り、満足に触れ合えていなかった所為もあるが、やはり無理をさせたかと反省はしている。