❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
「一見色んなものの利便性に富んでいるように見えて、案外世知辛いんですね」
「私達はたった一石で残りの日々を生きながらえる事が出来るのでしょうか…」
およそ四十万石弱の石高を持つ光秀からしたら、そこそこの少額という認識なのだろう。生活基準がまるきり異なる現代換算では、余程派手な遊び方をしなければ無難な金額だが、武将達は若干神妙な顔つきで口々に零す。とてつもない大金という訳ではないが、これの本出が路上パフォーマンスだという時点でかなり特異という点に、考えが至るものは残念ながら誰も居なかった。
「戦国武将の金銭感覚おかしくない!?」
「光秀さん、その金額だと私達の時代では普通に数日暮らせる分の金額ですよ。まあ使い方にもよりますけど…」
堪らず彼方が突っ込むと、凪が慌ててフォローを入れる。残念ながら光秀が日頃使う金子一枚分にも満たない金額ではあるが、稼ぎは稼ぎだ。そんな武将達へ、ひとまず佐助が一人ずつ給与袋を渡していった。茶封筒に緑の文字で【給与】と印字されているそれを受け取り、それぞれしまい込む様が何となく現代染みていて、言っては何だがちょっと可愛い。
「これは彼方さんへ模造刀の立替金です」
「じゃあ武将達の男気に甘えて有り難く受け取るわ。ありがと」
貨幣価値のレクチャーは、佐助が後ほど行ってくれるらしいと聞いて凪が密かに安堵する傍ら、同じく封筒に入った立替金を受け取った彼方が笑みを浮かべる。やがて何事かを思い至った様子で眸を瞬かせ、凪を振り返った。
「……良いこと思い付いちゃった」
「どうしたの?」
グラスへ手を伸ばそうとした凪が不思議そうに双眼を瞬かせる。実に楽しげに笑みを浮かべた彼方は、ぐるりと周囲の武将達を見回した後、再び凪へ向き直った。
「どの道まだあっち帰るまで時間あるんでしょ。だったら、夏なんだしせっかくなら行こうよ」
「え、何処へ?」
夏の定番と言えばあれしかない。彼方の発言に何事か思い当たったらしい佐助が双眼を瞬かせる。片手に持った立替金の封筒を軽く口元へあてがい、皆目検討が付かないらしい武将達と、友人の視線を受けて彼方が高らかに言い切った。
「海に決まってんでしょ!」