❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
「光秀さん、どうぞ……というか、光秀さんだけ安土を離れてるんですね」
「ああ、ありがとう。そうだな、偶には余所の国で暗躍するのも悪くない。兼続殿はさておき、噂の猛将、真田幸村殿の実力を図るいい機会だ」
光秀の分の模造刀を梱包から取り出して凪が渡すと、男がそれを受け取りながら不敵に笑う。凪達は後から組み合わせを耳にしたのだが、見事に安土と春日山勢力に一部を除いて分かれている事へ苦笑を零す。公平な籤引きだったんだろうが、実に偏った結果となったものだな、と感心すらした程だ。
「急に皆で殺陣をするなんて言い出したから、ちょっとびっくりしました。光秀さんに限ってそんな事ないと思いますけど、怪我には気を付けてくださいね」
「刃の潰れた刀では、滅多な事にはならないだろう。そう心配するな」
模造刀とは言えど、一応武器は武器である。心配そうに自らを見上げて来る凪を前に、光秀は浴衣の帯へ刀を差すと片手で彼女の頭をそっと撫ぜた。よしよしと宥めるようにして触れた後、耳朶へさり気なく触れる。ぴく、と小さく震えた彼女の睫毛を見て男が双眼を眇め、名残惜しむかの如く手を離した。
「で、でも……」
光秀に触れられた事で気恥ずかしそうにしていた凪だが、ふと視線をちらりと向けた先で、同じく模造刀を受け取った秀吉が、感触を確かめる目的でそれを抜き放つ。ブオン!という、模造刀から発せられるにはあまりにも物騒且つ勢いのあり過ぎる斬空音が響き、凪がぱちぱちと眸を瞬かせた。
「あの男は豪腕だからな。まともに鍔迫り合うと面倒だ」
「おい光秀、聞こえないと思ってるんだろうが、全部聞こえてるからな」
「おやおや、とんだ地獄耳だな秀吉。せいぜい刀を折られないよう、気を付けるとしよう」
(確かに秀吉さん、力強いもんね……というか皆本物の武将だし、そもそも模造刀の強度は大丈夫なのかな…)
肩を竦めた男がくつりと笑う。傍で感触を確かめるようにして模造刀の一期一振を振るっていた秀吉が、眉間を顰めて光秀を見た。