第7章 長夢
ふわふわとする感覚。
ここは、多分夢。
ぼぉっとする意識の中、
誰かの話し声が聞こえる。
「師範!見てください!桜!桜ですよ!」
「見ればわかる」
「つれないですね。ほら、そこ。一凛だけ…季節を間違えた子が咲いています」
「よく似ているではないか」
「誰とですか?」
自分の事を言いたいのでしょ?とむくれた声に、男性はただ彼女に対しほほえましいと言わんばかりに雰囲気が和らぐ。
「もうわたくしも、れっきとした鬼狩りです!師範がちゃんと育ててくださったではありませんか」
「まだ、お前は弱い。」
「でも、先日、2対の鬼を一瞬にして仕留めたんですよ?こう、バッサリと」
「それでもだ。お前はまだ弱い」
なんだろう…
懐かしい…
どうして?
わたし、こんなの、知らない…。
「千鶴殿は天真爛漫でござる」
「左様。桜がよく似合う方だ」
わたしの名前。
ぐ…偶然よね?
それに、現代の話し方じゃないみたいだし。
「月柱殿とのやり取りはまるで夫婦のようでござるな」
「言うてはならぬ。月柱殿は…」
「存じておる。だが、千鶴殿はまるであの二人の太陽な方だ…」
「それは否定できん」
わたし、名前…太陽…。
それ、わたしじゃない。
わたしは、父上と母上に支えられてしか、輝けなかったから…。
話声がする二人の向こうにいる、同じ名前の女性と”月柱様”と呼ばれる人は霞んでよく見えない。
その横に同じ背丈くらいの髪の赤みが強い男性。
三人の雰囲気がささくれた今のわたしの心を撫でるかのように温度を与えて、じんわりと暖かさを感じる。
こんな長閑で平穏な風景はいつぶりに見るんだろう。
なんで、こんなに懐かしくて涙腺を厚くするの?
わたし…
しらない…。